生まれたばかりの赤ちゃんの免疫力の秘密?
日本人であれば、麻疹(はしか)という病気を知らない人はいないでしょう。高熱が続き、全身に発疹が出て、ときには死に至ることもある。おまけに麻疹のウイルスは非常に感染力が強いため、しばしば大流行を引き起こすという、とても怖い病気です。
麻疹は子どもがかかりやすい病気です。もし生まれたばかりの赤ちゃんが麻疹になればまず助かることはありません。なぜなら、悪性のウイルスと戦い、高熱に耐えるだけの体力がないからです。
でも、ご安心を。生まれたばかりの赤ちゃんは麻疹にはかかりません。体力はなくともお母さんからもらった「免疫」のおかげで、生後7ヶ月間くらいは麻疹のウイルスから守られるからです。
人間が病気になる原因には、外因と内因とがあります。感染症のウイルスなどは外因、体内に生じるがん細胞などは内因になるわけですが、それらの病気の原因を「自分以外のもの」と判断して、やっつけてしまおうとする働きを「免疫」といいます。免疫力が高いということは、すなわち病気になりにくいということ。いわば、健康で生きるための基本条件といってもいいでしょう。
赤ちゃんの免疫力が高いことには、2つの理由があります。まず、お母さんから与えられる母乳に含まれるラクトフェリンという物質が強力な免疫を持っていることです。とくに分娩直後の初乳には、ラクトフェリンが大量に含まれています。お母さんが赤ちゃんを母乳で育てるという行為には、単に栄養を与えるだけでなく、わが子を病気から守るという重要な意味があるわけです。
スポーツ選手の多くが30代半ばで引退する理由
今一つの理由は、赤ちゃん自身の生命力です。赤ちゃんは毎日体重が増え、日に日に大きく成長しますが、これは細胞分裂によって新しい細胞がつくられるからです。新しい細胞は「新生細胞」と呼ばれ、赤ちゃんの体内では1日に何万個の新生細胞がつくられます。この新生細胞が強力な免疫を持っているのです。
子どもは高校生ぐらいまで背が伸び続けますが、体が大きくなるのは、体内で新生細胞がつくられているからです。10代で重い病気にかかる子が少なかったり、大病になっても頼もしい回復力を発揮したりするのは、新生細胞の免疫のおかげでもあるのです。
新生細胞の免疫は、肉体の成長が止まるとともに下がり始め、30代半ばになる頃には、ほとんど働かなくなってしまいます。スポーツ選手を見ていると、30代半ばで現役を引退するケースが多いように思われますが、体の衰えを実感する年齢と、新生細胞の免疫が収まる時期とは、ほぼ一致するのではないでしょうか。
新生細胞の免疫に頼れなくなると、病気に打ち勝つ力も当然弱くなります。30代半ばを契機に、「風邪をひきやすくなった」「疲れやすくなった」「徹夜ができなくなった」「お酒に弱くなった」といった経験を持っている人が、私の周辺にもたくさんいます。しかし、それほど悲観することはありません。何歳になっても、免疫力は自分の心掛け次第で高めることが可能なのです。
小泉武夫
※本記事は小泉センセイのCDブック『民族と食の文化 食べるということ』から抜粋しています。
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