露店のおむすび屋
台北市内のコンビニエンスストアに行くと、日本でよく見かけるように三角形のおむすびや丸形のおむすびが陳列されている。日本と同様におむすびはポピュラーのようだが、甘辛い味付けの肉や肉でんぶ、エビチリなど見慣れない具が多い。サーモンマヨやツナマヨもあるが、台湾のマヨネーズは甘いため、日本のそれとはだいぶ違う。台湾人は塩辛い味付けよりも甘辛い味付けが好みらしく、日本で定番の「梅」おむすびはどこのコンビニにも見当たらない。梅といえば、紹興酒に入れるための甘い梅干しばかりだ。
台北のコンビニおむすび
一方で、台湾にはコンビニおむすびとは違ったローカルおむすびがあると聞き、台北市内を探してみた。すると、「飯糰」と書かれた看板を発見。看板の目の前で露店を出していた男性に「飯糰(ファントアン)」の看板を指すと、男性はおひつからほかほかごはんを取り出して目の前でおむすびを作り始めた。
「飯糰」の看板
おむすび屋さん
お米は黒米が入った紫色。白ごはんもあるらしいが、今回は黒米ごはんでつくってもらう。ラップの上に平たくごはんを乗せ、まるで「おにぎらず」か「巻寿司」でもつくるかのように見える。
調理中のおむすび
20cmの俵型
台湾では素食(ベジタリアン)文化が浸透しているため、素食対応も可能。でんぶは肉や魚だけでなく、大豆でつくったものも用意されている。日本では1つのおむすびに1種類の具が一般的だが、この店ではどんどん具を乗せていく。好みを伝えると、スライスした煮卵、刻んだ高菜のようなもの、ツナのように見える大豆フレークを乗せてくれた。
ここからどうやってむすぶのだろうか…と思った次の瞬間、細長い揚げパンのような油條(ヨウテャオ)を具材の上にぽんと乗せた。2本も。そして、油條や具材をぎゅっと包み、巨大な俵型のおむすびをつくってくれた。直径20cmほど。ずっしり重い。コンビニのおむすびとは別物である。
白米おむすび。ずっしり重い
ひとくち食べると、サクッとした食感。例の油條だ。おむすびを食べているにもかかわらず、サクサクするという初体験に戸惑う。ごはんは糯米(もちごめ)だが、薄めに広げられているだけなのでお腹に重たくない。ごはんと揚げパンには味がついていないが、煮卵や高菜などの具材にはしっかりと味が付いていてうまく調和されている。ボリュームたっぷりの見た目とは裏腹に、油條は中が空洞なので、思ったより軽やかで優しい味わいだ。
ただし、油條の油切れが悪いと、かなり重たい。早朝から人気の朝食専門店で食べた飯糰は、油條の油切れが悪く、具材の甘辛い切り干し大根も油っぽく、食べ進めるのがつらかった。
油っぽいおむすび
台湾の朝食最新事情
この朝食専門店では、おむすびを食べている人はほとんどいない。人気の揚げパン入りの豆乳に付けあわせているのは、ほとんどの人がパンだ。周辺の屋台でも、朝食に麺を食べている人が多い。お粥は朝食のイメージがあったが、お粥専門店は夕方から深夜までの営業が多い。
台湾の朝食屋さん
台湾人の朝食風景を眺めていると、台湾の主食は米なのか麺なのかパンなのかわからなくなってくる。だが、現代の日本の朝食は、ごはん食よりもパン食が多いという統計データもある。海外から見た日本の朝食も、台湾と同様に「主食がよくわからない国」なのかもしれない。
それでも、日本はやはりお米の国。台湾の飯糰を体験すると、お米そのものを味わう日本の塩むすびが、いかに特異な食べものであるかを思い知らされる。
取材/文:柏木智帆
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