乳酸菌だけで発酵させる「すんき」
江戸時代から地元に伝わる漬物を町づくりの柱に据え、町をあげて増産に取り組んでいる自治体があります。塩や調味料を一切使わず、乳酸菌だけで発酵させる製法で近年、健康食として人気が高まっている「すんき」の産地、長野県木曽町です。町は「すんき」を地方創生に向けた町の総合戦略の中心に位置づけ、原料の赤カブの増産や加工場の整備などを通じた「六次産業化」を進めることで、遊休農地の活用や雇用創出を図る狙いです。漬物を柱にしたまちづくりは、全国的にも珍しいそうです。
「すんき」は、長野県の木曽地域の在来種の赤カブの葉と茎を、塩や調味料を一切使わずに漬け込み、乳酸菌だけで発酵させてつくります。塩が貴重品だった山間の同地域で、300年以上に渡ってつくられてきた伝統食です。地元では、ご飯のお供にしたり、味噌汁やかけそばの具にしたり、おやきにしたりして食べられています。
「すんき」の味噌汁
「すんき」のかけそば
「無塩の漬物」として、長寿の長野県を象徴する健康食とメディアなどで取り上げられたことで全国から注文が殺到するようになり、晩秋から漬けられた「すんき」は例年、年明けには完売してしまうほどの人気だそうです。
GI保護制度にも申請
木曽町は2015年、「すんき」を町の「まち・ひと・しごと創生総合戦略」の柱に据え、「すんき」を中心にした町づくりに取り組むことになりました。
原料となる赤カブは8月上旬に種をまき、初霜の降りる10月下旬に収穫、加工されて漬け込まれます。町は赤カブの増産に向けて、町内4カ所のビニールハウスで11月と1月にも収穫できるよう試験栽培に取り組んでいます。実現すれば「すんき」の生産拡大につながります。同町にある県の農業改良普及センターも3年前から、近隣の大桑村や南木曽(なぎそ)町の農家に標高差を生かした赤カブの時間差栽培を働きかけ、増産につなげています。町はまた、加工業者に対して、これまで手作業で行われていた赤カブの茎や葉を洗ったり刻んだりする工程を機械化する支援もしています。こうした取り組みにより、昨年のすんきの生産量は従来の約4倍、40tにまで拡大しました。町は50tに増やす目標を掲げています。
ブランドの確立にも力を入れます。同町など木曽郡内の自治体とJA、加工業者は昨年、協議会をつくって、「すんき」を国の地理的表示(GI)保護制度に申請しました。原料の赤カブを地元在来の6品種に限り、加工工程も厳格に定めることで「すんき」のブランドを守るのが狙いです。認定されれば、長野県では市田柿に続くものとなります。
課題は、全国区となった人気の定着と販路の拡大です。木曽町農林振興課の担当者は、「地元には、すんきを使ったピザや茶碗蒸しなどユニークな料理を出すお店もあります。ぜひ全国から足を運んでもらってすんきを使った料理を味わってもらって、お土産に買い求めていただければ。御嶽山の噴火以降、減少の続く観光客の増加にもつながればと思います。そして、人気が一過性で終わらないように、これからも健康食であるすんきの魅力をアピールしていきたい」と話しています。