中央アジアの真夏は、ほとんど雨が降りません。雲ひとつない空と日照りの大地は高温でカラカラに乾燥していて、ほんの数分屋外にいただけでも脱水状態になりそう。
そんな暑熱の日に、中央アジアのキルギス民族に古くから伝わる夏の発酵ドリンク「ジャルマ」は最高の飲み物。ビタミンB1とB2が豊富に含まれ、ミネラルもたっぷりの健康ドリンクでもある。
見た目は茶色くどろっとしていて、発泡している。飲んでみると、まずは発酵由来のハッキリとした酸味があり、そして塩分も含まれているためしょっぱい。舌触りは大麦の粉のザラザラした感じがあり、喉越しは決してキレていない。
気温40℃の日に、乾ききった喉を潤すには、このくらいの刺激が丁度良い。
自家製のジャルマを注いでいる
家庭で手作りしたジャルマは格別。
作り方は、大きな鍋に少量の羊の脂を熱し、粉状に挽(ひ)いてある大麦を炒(い)る。色が変わって来たら水を入れて煮込み塩を加え、火を止めて自然に冷ます。冷めたら自家製のヨーグルトかクルトを少しと小麦粉をスプーンひと匙入れて一晩置いておくと、発酵が始まり発泡してくる。
家庭で手作りしたジャルマ
このジャルマはキルギス民族の長い歴史の間、夏の飲料として伝統的に家庭で手作りされてきたが、現代になり工場で生産出来るようにと、キルギス人の手によって商品開発され、1998年に発売された。その商品名は「ショロ」という。
ショロは爆発的に売れて、今やキルギス国内では知らない人は誰もいない。そして、製造元のショロ社は、規模も知名度も共に国内トップの飲料メーカーとなった。
ペットボトル入りの「ショロ」をスーパーや食料品店でいつでも買えるのはもちろん、夏の間には街角のいたる所に出現する「ショロ」の露店で紙コップに量り売りで買うこともできる。
ショロ
ショロの露店
紙コップで量り売り
夏の暑さ対策に水分、塩分、ミネラル、そして発酵のチカラ。
ジャルマは、先人の生み出した素晴らしい知恵の詰まった飲み物である。
こういった伝統的な発酵食品が近代化や工業化により存続の危機に陥ったり消滅してしまう事例が世界中でみられる。
しかし、このジャルマに関しては、「ショロ」という商品として流通経済に乗ることによって、さらに広がりを見せ、キルギス民族の飲料として確固たる地位を築いた良い例であることは間違いない。
取材/文:市川亜矢子