中央アジアの夏の草原で伝統的な牧畜が行われている。ここで遊牧民族が作っている「カイマク」という生クリームの原型を紹介しよう。
生クリームとは、牛乳から乳脂肪分を取り出したもの。生クリーム作りはまずは乳搾りからはじまる。牛何頭分かのミルクを鍋で軽く加熱する。
加熱後、そのまま放置しておくと、1日ぐらいで表面に乳脂肪分の塊が形成される。これがいわゆる「生クリーム」だ。昔から人間が行ってきた原始的な生クリーム製法。
乳搾りから1日が始まる
表面に浮く乳脂肪分の塊
しかし、約100年ほど前からはこの工程に便利なマシンが用いられるようになった。乳脂肪分を効率的に分離する遠心分離機だ。草原では手動の遠心分離機が使われている。温めた原乳をこの機械に入れ、分離を行う。出てきた乳脂肪分が「生クリーム」。現地では「カイマク」と呼ばれる。
遠心分離機
用途は主にパンに付けて食べるか、紅茶にスプーンひと匙入れて飲むか、さらに加工してバターにするか。
やはりそのまま食べるのが一番おすすめである。脂っぽさは一切なくキメが細かい。牛乳由来の優しい甘みと香りが口の中でまろやかに滑るように広がる。食べ過ぎ注意なのだが、もう太っても構わない、そんな気分になるほどヤミツキになる。
日本では生クリームは「生乳、牛乳又は特別牛乳から乳脂肪分以外の成分を除去したもの」と定義されていて、その脂肪分は18%以上でなければならないと規定されている。
この「カイマク」が乳脂肪分何%なのか、草原では誰も知らない。
その日の天気や温度、作る人や使う機械によって、「カイマク」の出来上がりは固めだったり柔らかめだったり、白かったり黄色かったりと色々。
少し日にちが経ったものは、空気中の常在菌と混ざって発酵しているのか、かすかな酸味が感じられる。きっと、発酵バターになっているのだ。
カイマク
訪れる家ごとにちょっとずつ味が違う。
中央アジアの草原には原材料から作り出す加工食品の原風景があった。
取材/文:市川亜矢子