【歴メシを愉しむ(164)】梅雨の水は極上の調味料

カテゴリー:食情報 投稿日:2025.06.28

梅雨入りした途端に大雨が降り、しばらくはこんな調子で雨続きの日々か、イヤだなあ…と憂鬱に思っていたら、今度は梅雨の晴れ間と呼ぶには、激し過ぎるほどのカンカン照りで、熱中症に警戒!という、真夏のような酷暑である。

暑さに慣れていないため、身体の調子を崩しておられる方もおられよう。

 

梅雨を元気に過ごすには

梅雨入りは、「入梅」とも呼ばれており、今年の「入梅」は6月11日だった。雑節の一つで、梅の実が熟し始める頃、雨季に入るので、この名前となった。

昔から、農家にとっては田植えの時期を見極めるためにも梅雨入りを知ることは重要で、雨季の目安を知っておく必要があった。江戸時代には、梅雨入りを知ることは農事にとって大切なことだったので、暦学者が目安として暦の上に設けたといわれている。

ということで、蒸し蒸しジメジメ、かつ天候が激しく移り変わる梅雨を元気に過ごすために、入梅の頃に美味しいといわれている食べものを集中的に食べようと思う。

 

「梅雨の水」は極上の調味料

この入梅の頃には、「梅雨の水を飲んで美味くなる」といわれている魚がある。

まずは、大阪人の私にとっての代表格は大好物の「はも」。大阪や京都をはじめ関西では夏の魚として親しまれてきた。

「はも」は産卵時期を迎える梅雨の頃から脂がのりはじめて身も柔らかくなる。骨切りされた鱧を3~4センチほどに切り、熱湯にサッとくぐらせ、氷水に落としてキュッとしめた「はもちり」。美味にして美しいこの一品は、「牡丹はも」とも呼ばれ、酢味噌や梅肉をちょんとつけていただくのだ。

ほかにも、梅雨の水を飲んで美味しくなるといわれている魚は、「入梅いわし」「梅雨あなご」とも呼ばれる真いわし、あなご。「入梅いわし」は、この時季にふさわしく、梅肉と炊くのが気分である。「梅雨あなご」は、さっと焼いて、山葵と海苔でいただくのがよろしい。

 

「鶏魚」って、どんな魚?

「鶏魚」とは、「鶏」なのか、「魚」なのか、不思議な名前だが、「いさき」のこと。鶏肉にも匹敵する美味しさということで、この字が当てられたそうな。「伊佐木」「伊佐幾」という字もある。面白いのが、若魚の時は、猪の子に似た黄褐色の縞があることから、「ウリンボウ」と呼ばれるというから、有害鳥獣捕獲で毎日、猪を追っている猟師の私、山野で見かける猪の瓜坊と同じ名前とは、とても親しみが持てる。

「梅雨いさきは鯛に匹敵する」ともいわれ、「いさき」は梅雨入りに旬を迎え、さらに産卵期が旬と重なる代表的な魚で、古くから夏の塩焼き魚の定番だった。焼くと皮の旨みが出て非常に美味しい。煮付けやバター焼き、イタリア料理アクアパッツァ(オリーブオイルで焼いた魚を水で煮た一皿)にしても美味だが、蒸し暑いこの時季のおすすめはお造り。脂がのって甘みがあり、ほのかな磯香が独特の味わいを醸し出し、クセになる味わいだ。

 

入梅の一種一合

さらに、あじ、しまあじ、きす、すずきなど、この時季に美味しい魚は多い。いやはやこれは困った。何が困ったのかというと、こんなに美味しい魚がたくさんあるということは、それだけ冷酒もたくさん飲まなければならない。(ならないということもないが…)

そこで、自身への戒めのために創作した言葉が、「入梅 一種一合」。読んで字のごとく、「入梅の美味魚一種類に一合まで」という意味なのだが、「どこが戒めやのん!」との声が聞こえてくる。

歳時記×食文化研究所

代表 北野智子

 

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この記事を書いた人

編集部
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