「伝統的酒造り」のユネスコ無形文化遺産登録へ

カテゴリー:酒 投稿日:2024.11.09

小泉武夫先生が進めていた

日本政府は、国連教育・科学・文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産登録にむけて、日本酒や焼酎、泡盛などを造る技術「伝統的酒造り」について、提案していました。2024年11月5日、提案の窓口である文化庁からユネスコの評価機関が登録を勧告したことが発表されました。正式には12月2日からパラグアイで開かれる政府間委員会で登録が決まる見通しです。

じつは「伝統的酒造り」の無形文化遺産登録にむけた国内の取りまとめの会議の議長は小泉武夫先生なのです。先生が同じく関わった2013年の和食(日本人の伝統的な食文化)に続き、2件目になります(この年、韓国の「キムチ作り文化」も登録)。

 

日本では23番目の登録

無形文化遺産登録は、「無形文化遺産の保護に関する条約」(無形文化遺産保護条約)に基づき、グローバリゼーションの進展や社会の変容などに伴い、無形文化遺産が衰退や消滅するという危機感から設置されました。この条約の範囲は「口承による伝統及び表現や芸能、社会的慣習、儀式及び祭礼行事、自然及び万物に関する知識及び慣習、伝統工芸技術といった無形の事象」です。

ところで、日本では2008年に登録された「能楽」から23番目の登録となります。また、世界の酒類ではメキシコの「テキーラの古い産業施設群とリュウゼツランの景観」、2013年に和食とともに登録されたジョージアの「クヴェヴリを使った伝統的なグルジア(ジョージア)のワイン製造法」、2016年「ベルギーのビール文化」、2019年にモンゴルの「馬乳酒の伝統的な作り方と関連づいた慣習」に続いて5例目となります。

 

1000年以上の歴史と伝統がある

「伝統的酒造り」の無形文化遺産登録に向けた、文化庁のホームページでは「500年以上前に原型が確立し、発展しながら受け継がれている日本の伝統的酒造り(日本酒、焼酎、泡盛など)は、米・麦などの穀物を原料とするバラこうじの使用という共通の特色をもちながら、日本各地においてそれぞれの気候風土に応じて発展し、受け継がれてきた」とあります。

伝統的な木槽(きぶね)搾りで醪をゆっくり搾る

 

事実、日本の伝統的なお酒の歴史は延喜式や万葉集にも登場することから1000年以上も前から飲まれてきており、豊かな水資源や稲作可能な自然環境や気候に支えられながら、なにより日本独自の宗教儀式(神社)や祭礼行事(結婚式の三々九度など)など文化と深く結びついていたわけです。

 

「伝統的酒造り」に欠かせない杜氏の存在

「伝統的酒造り」では、卓越した杜氏や蔵人の伝統的な技術にも注目しています。つまり、極限まで精米したコメを柔らかくなり過ぎず、硬くなり過ぎないように蒸し上げる技や、単に麹菌を生育させるのではなく、中心部まで菌糸を生育させる技、そして、清酒独特の並行複発酵(酵母が餌にできないデンプンを餌にできる糖へと変換(糖化)しながら、同時に発酵させる技術)と呼ばれる発酵形式や吟醸香とよばれる香りを酵母が生産できるように、温度管理などを行う技です。

手作りでていねいに麹米をつくる

 

もともと杜氏や蔵人は、農閑期の出稼ぎから発祥しており、地域の経済や文化形成にも関わっているのです。さらに酒によるコミュニケーションツールとしての役割もあり、地域のコニュニティー形成に役立っています。

近年では20歳以上の若者のお酒離れなどもありますが、この「伝統的酒造り」の無形文化遺産登録を機に、お酒への理解と消費にもつながっていってほしいと願っています。

 

金内誠(宮城大学教授)

近著に『ワインの教科書』『発酵の教科書』(いずれもIDP出版)、監修『理由がわかればもっとおいしい! 発酵食品を楽しむ教科書』(ナツメ社)がある。

※画像提供/久須美酒造(新潟県長岡市)

 

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この記事を書いた人

編集部
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