魚醤と醤油、何が違う?
醤油の種類は?と聞かれると、薄口醤油にたまり醤油…などと答えるかもしれません。でも、それはすべて大豆などから生まれた植物性の醤油です。実は醤油は原料の違いで大きく動物性、植物性に分かれます。動物性の代表が魚醤であり、植物性の代表が大豆醤油です。この原料の違いでその持ち味が大きく異なってきます。
動物性と植物性で異なる風味
魚醤は、魚の内臓や肉に含まれている酵素の働きで魚自身の動物性タンパク質などが分解されることにより造られます。これに対し、大豆醤油は大豆や小麦が麹菌の酵素による発酵・熟成により造られます。原料が動物性か植物性かで風味が異なります。動物性の魚醤は濃厚なうまみがありますが、植物性の大豆醤油は切れ味の鋭いすっきりした味わいがあります。
科学的にいうと、魚醤は大豆醤油よりオリゴペプチド(アミノ酸の一種)が多く、一方大豆醤油は遊離アミノ酸(タンパク質と結合せずに一つひとつのアミノ酸の状態で体内中に存在しているアミノ酸)が多くなっています。この成分の違いが、食材や料理に絶妙な味わいを与えます。
魚醤と大豆醤油の使い分けテク!
【大豆醤油】
①味をしっかりつける効果があります。
②脱水作用があり食材を引き締める力があるので、水っぽい魚などは大豆醤油を使って調理すると食感も引き締まり、うまみが凝縮します。
③動物性の鰹だしがマッチする。
【魚醤】
④畜肉臭や生臭さをマスキングする効果が強いので、臭い消しに向いています。
⑤塩のとげとげしさ、酢の刺激的な酸っぱさを和らげたり、保水作用があるので、肉汁などの水分が抜けにくく、うまみが残りふっくらと仕上がります。
⑥魚臭さを消しつつ濃厚なうまみが加わり、白身の上品さが引き立ちます。
⑦焼肉の下味に魚醤を使うと肉汁が抜けにくいので、焼いても固くなりにくいという効果もあります。
⑧植物性の昆布だしと相性がよく、たとえば昆布だしに白身魚のすりみを浮かべて魚醤で味をつけると、コクと丸みのあるお吸い物になります。
魚醤と大豆醤油を使い分けることができればプロの味にワンラクンク上のテクニックとなります。
【一口メモ】ヨーロッパにもある魚醤
醤油は古代からある発酵調味料で、原料を塩漬けにして保存した事から発生したと言われています。醤油といえば大豆などの植物から作られた醤油が広く使われていますが、歴史的に見ると日本では魚醤の方が古く、大豆などから作られる醤油(穀醤)は奈良時代になってから作られるようになりました。世界に目を転じてみると、タイのナンプラー、ベトナムのニョクマム、中国の魚露、イタリアのガルム、コラトゥーラなど、アジアばかりでなくヨーロッパにも広がりを見せています。魚醤は、ヨーロッパではローマ帝国の滅亡とともに衰退したとされ、その後、ウスターソースやさまざまなソースが主流にはなりましたが、それでもいまだに愛されているものもありますし、ウスターソースももとは小魚を発酵させた魚醤が起源と言われており、魚のうまみは世界共通のうまみということになるでしょう。