腸内環境と感情の話
どうすれば免疫を高めることができるのかというテーマで、以前、東京医科歯科大学名誉教授の藤田紘一郎(こういちろう)先生と対談したことがあります。藤田先生は寄生虫学の第一人者であると同時に、世界的な免疫学者です。対談では、私はもっぱら食べ物についてのお話をさせていただきましたが、免疫に関しては藤田先生のほうが専門家。人間の免疫は「心の持ち方に大きく左右される」ということを、私は藤田先生からたくさん教えていただきました。
とくに印象的だったのは、笑うことが免疫力を高めるという話です。人間は感情を刺激されると、脳にPOMC(プロオピオメラノコルチン)というタンパク質ができます。この物質が、毒にもなれば薬にも変わるのです。悲しいと思っていると、POMCは悪玉ペプチドに変わって免疫を下げてしまいます。逆に楽しいと思っていれば善玉ペプチドに変わり、免疫を上げてくれるのです。
好きなことをやって、楽しい時間を過ごせていれば、免疫は自ずと高まる——、そう聞いて私が、「では、普段通り、うまいものを食って笑っていればいいんですね?」と言ったら、藤田先生は、「どう見ても小泉先生は免疫が高い」と、太鼓判を捺(お)してくれました。
私自身、くよくよ落ち込んだりすることがほとんどない、嫌なことがあってもすぐに気持ちを切り替えて、毎日を楽しく生きているという自覚があります。悩んでも仕方がないことに心を支配されるくらいなら、パッと気持ちを切り替えて、台所に向かいます。で、好きな料理をつくり始める。料理というのは、余計なことを考えずに没頭できる作業です。
「今日は何をつくってやろうか」「友だちにもらったジャガイモがあったな」「掘ったばかりのラッキョウもあるぞ」「そうそう、5年熟成の秘蔵の味噌があった」「では、ジャガイモを味噌炒めにして、刻んだラッキョウを上から散らして……」と、好きな料理をつくり始めれば、ついさっきまでの嫌な気分なんか、いっぺんにどこかへ吹き飛んでしまいます。
楽しい食卓を心掛けて
「食は心に始まる」と、私は繰り返し述べてきましたが、食事は楽しんでつくり、楽しんで食べるということも大事な心掛けです。両親の共働きや子どもの塾通いのために、今は”孤食”などといって、家族がそろって食卓を囲むのではなく、めいめいが好き勝手の食事をとる家も増えているといいます。これでは、免疫も下がってしまうだろうなと、私などは思ってしまいます。
やはり、望ましきは一家団欒。家族が仲良く食卓を囲み、楽しく笑いながらとる食事に勝る健康法はないのかもしれません。”笑う門には福来る”という言葉が示す通り、笑う門には免疫力もアップするのです。
小泉武夫
※本記事は小泉センセイのCDブック『民族と食の文化 食べるということ』から抜粋しています。
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