おふくろの味が日本人を救う【小泉武夫・食べるということ(36)】

カテゴリー:食情報 投稿日:2018.01.24

健康にいい味噌と漬物

 和食の献立に欠かせない味噌も、日本を代表する発酵食品です。原料となる大豆そのものも栄養豊富な食べ物ですが、発酵という過程を経ることで栄養価は格段に高まり、味も匂いも素晴らしいものに変貌します。私たち日本人は、毎日のように味噌汁を飲んでいますが、「おいしい」ことと「毎日食べられる」という2つの長所を併せ持った食品は、意外に少ないものです。

 老化防止ということで言えば、味噌にはさまざまな効能が認められています。発酵によって生じたリン酸質の一種のレシチンには、高血圧を予防する働きがありますし、リノール酸には心臓や脳髄中の毛細血管を丈夫にする働きがあります。

 1981年の癌学会では、国立がんセンター研究所が、「味噌汁の摂取頻度と胃がん死亡率との関係」について、非常に興味深い研究結果を発表しました。それによると、味噌汁を毎日飲んでいる人ほど、胃がんの死亡率は低くなるのです。そればかりではありません。全部位のがん、動脈硬化性心臓疾患、高血圧、胃・十二指腸潰瘍、肝硬変などによる死亡率も、全般的に低くなっていることが明らかになったのです。

 また、味噌と並んで漬物も日本人の健康を支えてきた発酵食品です。私も漬物が大好きで、漬物の本まで書いたことがありますが、ざっと調べただけで日本の漬物は600種類以上。なにしろ野菜だけでなく、鯨の軟骨(佐賀県)や、猛毒のあるフグの卵巣(石川県)まで漬物にしてしまうのですから、日本の食文化は本当に奥が深い。

 漬物の匂いと味が食欲をそそることは、いまさら私が述べるまでもありませんが、漬物という発酵食品が成人病の予防食であるということは、是非知っておいて欲しいと思います。各種研究機関の臨床実験などによって、漬物には中性脂肪やコレステロールの増加といった老化現象を抑制し、動脈硬化、がん、心臓病、糖尿病などの進行を予防する働きがあるということが、現在では定説になっているのです。

 

守っていきたい、日本の食文化

 そういった”保健的機能性”を、もしかすると昔の日本人は体験的に知っていたのかもしれません。明和元(1764)年の料理本『料理珍味集』には、漬物ばかりか、「糠味噌をぬるま湯に溶かして毎日飲めば病気にならない」とまで書かれているのですから。

 ところで、私がここまでにお話してきた発酵食品には、共通点があることに気づきませんか?それは、決して特別な食べ物ではなく、身近なところで安く手に入るということ。「手前味噌」という言葉があるように、もともと味噌は自家製でした。漬物も、各家庭の糠床でつくられていた保存食です。つまり、味噌も、漬物も、そもそも家庭の味であり、おふくろの味なのです。その味を今に引き継ぐことができなければ、日本の食文化は衰退していくだけだと私は思っています。

小泉武夫

 

※本記事は小泉センセイのCDブック『民族と食の文化 食べるということ』から抜粋しています。

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編集部
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