白くてドロドロした健康食【小泉武夫・食べるということ(35)】

カテゴリー:食情報 投稿日:2018.01.13

江戸時代の夏を救った甘酒

 日本人なら甘酒の味は知っていることと思いますが、最後に飲んだのはいつだったか、思い出してみてください。「たしか、あれは木枯らしの吹く寒い日だった……」という人も多いのではないでしょうか。

 寒いときに飲む甘酒は、ポカポカ温まるものです。しかし、江戸時代の後期には甘酒は夏の飲み物でした。俳句の歳時記にも、「甘酒」は今も夏の季語として載っています。

 江戸時代の風俗事典ともいえる『守貞謾稿(もりさだまんこう)』には、「夏月専ら売り巡るもの」として、真っ先に「醴(あまざけ)売りなり」という記述が載っています。値段は、江戸時代では1碗8文、京坂(京都・大阪)では1碗6文。当時、清酒1升が180文という記録が残っていますから、甘酒がいかに安かったことか。

 『守貞謾稿』を著した喜田川守貞は、「我等30歳比までは、寒冬のみ売り巡りけり。今は暑中往来を売りありき、かへつて夜は売るもの少なし」とも書いていますから、もともと甘酒は寒い時期の飲み物だったことがわかります。それが、夏に売られるようになったことには、ちゃんと理由があります。江戸時代、死亡率がもっとも高い季節は夏だったのです。医者も薬も今ほど充実していなかった当時、お年寄りや病弱な人の中には、夏の暑さを乗り切れずに亡くなる人がたくさんいました。そこで、夏バテ防止の特効薬として飲まれるようになったのが甘酒です。

 蒸した米に麹菌が増産したものを米麹といいます。これをお湯に入れて、こたつの中などに一晩置いておけば、発酵して翌朝には甘酒ができています。甘酒の甘みは、麹菌が出す糖化酵素(アミラーゼ)がデンプンを分解してつくったブドウ糖です。そのブドウ糖が甘酒には20%以上も含まれているのです。

 加えて、麹菌は増殖するときにビタミンB1、B2、B6、パントテン酸、イノシトール、ビオチンなどの栄養素を大量につくります。さらに、麹菌は米の表面のタンパク質を分解して、必須アミノ酸をつくります。

 こうして出来上がった甘酒は、科学的に分析すればブドウ糖とビタミンとアミノ酸の混合溶液。ということは、現代の病院で栄養補給のために行う点滴とほとんど同じ成分なのです。

 江戸時代、子どものお小遣いでも買えた甘酒という発酵食品は、庶民の夏には欠かせない総合栄養ドリンクでした。そんな素晴らしい飲み物を、麹菌という微生物は米と水だけでつくり出したわけです。

 

ヨーグルトは不老長寿の薬?

 さて、日本の甘酒に匹敵するような素晴らしい発酵食品が、外国にもあります。それがヨーグルトです。

 牛乳を加工してヨーグルトやチーズをつくっていたと思われる様子は、メソポタミア地方(現在のイラク周辺)で発見された紀元前3500年頃の石版に描かれています。19世紀の頃には、ヨーグルトを食べる習慣はブルガリアを中心とした東地中海地方で広まっていましたが、この地域には健康で若々しい人たちが多かった。そこに注目したのがロシアの微生物学者I・メチニコフ博士。後にノーベル生理学・医学賞を受けることになるメチニコフ博士は、「ヨーグルトによる不老長寿説」を唱えます。これが火付け役となり、以来ヨーグルトは世界中で日常的に食べられる発酵食品として普及していくことになったのです。

 不老長寿というのは大袈裟かもしれませんが、ヨーグルトが健康にいいのは疑う余地のない事実です。なにしろ原料の牛乳の由来するタンパク質やビタミンB2やカルシウムが豊富で、しかも発酵によって消化吸収が抜群に良くなっているのです。最近の研究では、血中コレステロール値を下げたり、大腸がんや直腸がんの予防が期待できるという研究結果も報告されています。

 日本でも、健康維持のために毎日ヨーグルトを食べる人が増えています。牛乳を飲むとお腹がゴロゴロするのは、乳糖分解酵素の働きが弱い日本人の体質だと述べましたが、ヨーグルトをつくる乳酸菌は、発酵中に乳糖をどんどん分解してくれます。ですから、普段牛乳が飲めないという人でも、ヨーグルトは安心して食べることができるわけです。

小泉武夫

 

※本記事は小泉センセイのCDブック『民族と食の文化 食べるということ』から抜粋しています。

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この記事を書いた人

編集部
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