行列のできる駅弁屋
日本では駅弁は当たり前。新幹線に乗るときは駅で必ず購入するという人もいるだろう。駅弁は日本ならではの文化のように思われがちだが、実は台湾でも駅弁が人気だ。
台湾の弁当文化は日本統治時代の影響で根付いたと言われている。日本の駅弁とはどう似ていてどう違うのか。台北市内で駅弁屋を訪れた。
台湾各地の主要駅に店舗を構えている「臺鐵弁當(たいてつべんとう)本舗」は、台湾人に親しまれている。
臺鐵弁當本舗
台北市の「台北車站」駅では、構内に3店舗を構え、時には行列ができるほど。一番人気は、骨付き豚肉を揚げてからタレに漬け込んだものをごはんの上に乗せた「排骨弁當」。台湾は肉料理ばかりという印象だが、宗教上ベジタリアン(素食)が一定層いるため、動物性タンパク質を一切使っていない「素食弁當」も販売されている。どの弁当にも木の箱が使われているのが味わい深い。
日本ではめずらしいベジタリアン仕様の「素食弁當」を2種類買ってみた。1つは、ごはんの上に野菜炒めやきんぴらごぼう、甘辛く煮た湯葉や生麩などが乗った弁当。
甘辛く煮た湯葉が乗った素食弁当
もう1つは、黒米やハトムギなどを入れて炊いた紫色の雑穀ごはんの上に、野菜いためと塩茹でのミックスベジタブルとでんぶのようなものが乗った弁当。ミックスベジタブルに見えたものは、ひよこ豆、グリンピース、枝豆、コーン、角切りしたエリンギ、人参、白こんにゃく。でんぶは魚か肉かと思ったが、実は大豆にナッツや白ごまを混ぜたもので、甘すぎずおいしい。
でんぶが乗った素食弁当
台湾の素食では、一見肉や魚に見える大豆料理が多い。素食専用の飲食店があるなど、ベジタリアンに優しい。
見た目と裏腹に味付けは全体的に薄め。油は使われているが、ギトギトというほどでもない。台湾の料理は、肉が多い、味付けが濃い、油っぽいという印象が覆された。ただし、日本人だからだろうか、醤油がほしくなった。
暖かい駅弁とごはんの関係
駅近くで製造されたという弁当はほんのり温かい。日本では冷めた駅弁は当たり前だが、台湾では温かい駅弁が好まれる。購入後にすぐに食べるか、自宅やオフィスで温め直して食べるのだという。白ごはんがちょっと硬めなのは、冷めた状態で食べる想定ではないからかもしれない。日本では、弁当向けに「冷めても硬くならないお米」の需要もあるが、台湾ではあまりそうしたニーズはなさそうだ。
日本人のわたしは弁当が冷めてしまうことも気にせずに街中をうろうろしてから食べたためか、白ごはんが硬くて食べにくかった。
台北車站駅
一方で、雑穀ごはんは炊飯の水分量が違うのか、冷めても硬くならず食べやすかった。糯米(もちごめ)である黒米が入っているせいかもしれない。百貨店の食品フロアでは、たくさんの雑穀が販売されている。特に黒米は人気のようでたくさんの商品が並んでいた。健康志向が強いのか、はたまた、もっちりの食感が好まれているのか。臺鐵弁當本舗で使われていたお米は冷めると硬くなりやすいので、この駅弁の場合は黒米入りの雑穀ごはんが合うように思われた。
駅弁を買っているのは電車に乗る人ばかりではなさそうだ。台北駅では店番をしながら駅弁を食べる若い台湾人女性の姿も見受けられた。駅弁はハレではなくケの食事として人々の生活に浸透している。
取材/文:柏木智帆