食べ物を大量に捨てる日本人
私は『食料自給率向上協議会』(農林水産省大臣官房)の会長を務めています。農水省が発表した平成22年度の食料自給率(カロリーベース)は、わずか39%。私たち日本人は、食べ物の6割以上を外国に依存しているのです。
にもかかわらず、日本人はたいへんな所業を犯しています。世界中のどの国よりも食べ物を残し、一番多く捨てているのが、私たち日本人なのです。これは、本当に恥ずかしい現実です。
日本で廃棄されている食べ物の総量は、一年間でなんと約2000万トン。何をそんなに捨てているのかといえば、まず余剰農産物があります。キャベツがたくさんとれた場合。全て市場に出荷したら、キャベツの値段は暴落します。取れすぎた農産物は、値崩れを防ぐために「生産調整」という名のもとに、一部は捨てられているのです。
学校給食や飲食店、さらには家庭から出る残飯も、膨大な量になります。そして、もっとも憂慮に堪(た)えないのが、小売店から出る売れ残りの商品です。まだ食べられるのに、賞味期限が切れた瞬間、食べ物はゴミにされてしまいます。そういった売れ残り食品は、年間約60万トンにも上ります。大人一日の食物摂取量を500グラムとして単純計算すると、毎日300万人分の食べ物が捨てられていることになるのです。
失われる「いただきます」の心
世界に目を向ければ、一握りの食べ物がないばかりに、毎日数千人の子どもたちが命を落としています。私もこれまでに、カンボジアの山岳民族やエチオピアやジンバブエといった国々で、食べ物がなく極度の栄養失調に陥った子どもたちの姿を目にしてきました。食べたくても食べられない人たち、食べなくてはならないのに食べられない子どもたちが、世界にはこれだけたくさんいるというのに、大量の食べ物を平気で捨てている日本人は、なんと罪深く恐ろしい民族であることかと思えてきます。
日本人は、食べ物に対して「いただきます」という言葉で、常に感謝の念を持って生きていた民族だったはずです。しかし、その心が今、経済効率を最優先する即物的な消費社会の中で失われているのです。
食べ物と一緒に、食べる”心”まで捨ててしまったら、いつか日本人には必ず天罰が下ると私は思っています。もしかすると、食料を外国に依存しなければならない日本の現状こそ、食べ物を粗末にしてきたことへの報いといえるのかもしれません。
小泉武夫
※本記事は小泉センセイのCDブック『民族と食の文化 食べるということ』から抜粋しています。
『民族と食の文化 食べるということ』
価格:6,000円(税抜き)
※現在、特別価格5,500円(税抜き・送料別)で発売中