
沖縄の肉料理は健康食
戦後の沖縄で、何よりも大きく変わったのが食べ物です。街中にステーキ屋さんが建ち並び、公設市場へ行けば大量の肉が売られている。沖縄の人たちの間にも、瞬く間に肉食の文化が浸透していきました。
沖縄にも肉食の文化がなかったわけではありません。伝統的な沖縄料理にラフテーがあります。豚の三枚肉を煮込んだ料理ですが、本来のラフテーは極めて優秀な健康食です。
私は沖縄のおばあたちがラフテーをつくるところを見せてもらったことがありますが、茹でて余分な脂を落とした三枚肉をぶつ切りにして、黒糖と泡盛で長い時間かけてコトコト煮込みます。つやつやしたベッコウ色に仕上がったラフテーは、たんぱく質とゼラチンとコラーゲンの宝庫で、脂っぽさなど少しもない上品な料理です。沖縄の人たちは泡盛というアルコール度数の強いお酒を飲みますが、ラフテーはゼラチンとコラーゲンで胃壁をコーティングして、アルコールの刺激から胃袋を守ってくれる食べ物でもあったわけです。
アメリカの肉食文化の浸透
ところが、手間ひまかけた沖縄の伝統料理が、アメリカの食文化に取って替わられてしまった。ステーキ、ハンバーガー、ホットドッグ、サンドイッチ……。そういった肉中心の食べ物が、沖縄の若い人たちの間にも広がっていったのです。
子どもの頃からアメリカの食文化に馴染んだ世代が、やがては働き盛りの年齢になります。その時期に呼応するかのように、沖縄の男性の平均寿命の低下は始まったのです。
民族の遺伝子の話を思い出してみてください。遺伝子というのは、長く食べ続けてきたものに対して、もっとも適応性があるのです。逆の言い方をすれば、それまで口にしていなかったものを習慣的に食べるようになることは、遺伝子に逆らった生き方をするのも同然ということです。
あらためて言います。都道府県別にみた沖縄の男性の平均寿命が、1位から25位にまで下がってしまった一番の原因は、食生活の激変なのです。これは、伝統的な食文化が守れなくなることの怖さを、民族の遺伝子が警告しているのだと、私には思えてなりません。
小泉武夫
※本記事は小泉センセイのCDブック『民族と食の文化 食べるということ』から抜粋しています。
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