近年、腸内フローラ(腸内細菌叢)の状態が人の健康に大きな影響があるとして、注目されています。腸内フローラを改善することで潰瘍性大腸炎を治療する抗生剤併用便移植療法の有効性が確認されました!
健康のカギを握る腸内フローラ
私たちの腸内には、100種類以上約100兆個もの細菌が棲んでいるとされています。腸内細菌は大きく、人のからだに良い働きをする「善玉菌」、腸内のものを腐らせたり有毒物質を作ったりする「悪玉菌」、善玉菌でも悪玉菌でもないが、体調が悪いときなどには悪玉菌のように働く「日和見(ひよりみ)菌」に分けられます。代表的な善玉菌はビフィズス菌や乳酸菌、悪玉菌はブドウ球菌やウェルシュ菌、日和見菌はバクテロイデスなどがあります。
腸内細菌の種類や数は人によってさまざまですが、どんなに健康な人でも、腸内に悪玉菌がゼロということはありません。大切なのは、善玉菌が悪玉菌を抑えるバランスが保たれていることです。最近の発酵ブームには、食べ物としてのおいしさだけでなく、発酵食品が腸内の善玉菌を助けるとされていることもあるでしょう。
潰瘍性大腸炎に対する抗生剤併用便移植療法
医療の分野でも、腸内フローラの状態と過敏性腸症候群やアレルギー疾患、糖尿病、動脈硬化などのさまざまな病気との関連が指摘され、研究が進められています。
11月22日(米国時間)、順天堂大学大学院医学研究科・消化器内科学講座(渡辺純夫教授)の石川大准教授らの研究グループが、米国の学会誌「Inflammatory Bowel Disease」電子版に「潰瘍性大腸炎に対する抗生剤併用便移植療法(※)」の有効性を発表しました。
潰瘍性大腸炎は、原因がわからず治療が難しく、日本では患者数は17万人を超え(2015年度)、毎年約1万人も増加している病気です。同グループが、2014年7月より開始した「潰瘍性大腸炎に対する抗生剤併用便移植療法」とは、患者の乱れた腸内フローラに対して、抗生剤3種の服用により腸内の細菌の数を極限まで減らしてリセット。次に内視鏡によりドナー便から生成した溶液(腸内細菌)を注入して、バランスのとれた腸内フローラにするもの。この研究により、抗生剤併用便移植療法による腸内フローラの変化が、潰瘍性大腸炎の治療効果と病勢に関連していることがわかり、便移植療法などの腸内細菌療法が、潰瘍性大腸炎の有効な治療法になりうる可能性を示しました。また、この研究から日和見菌であるバクテロイデスが治療効果と潰瘍性大腸炎の病勢に関連することもわかりました。
近年副作用の少ない治療として注目される便移植療法ですが、抗生剤を併用することで潰瘍性大腸炎の新たな治療法の確立につながる可能性があるのです。
※論文タイトル:Changes in Intestinal Microbiota Following Combination Therapy with Fecal Microbial Transplantation and Antibiotics for Ulcerative Colitis