「山田錦」が2月27日に誕生80年を迎えた。
山田錦とは、在来品種の「山田穂」と「短棹渡船(たんかんわたりぶね)」からつくられた酒米(さかまい)の一品種。兵庫県で品種開発され、酒米として優れた性質から昭和11年に県の奨励品種となり今年で80年になる。「山田錦」とラベルに記されている日本酒を目にした人も多いだろう。
長年にわたり“酒米の王者”の座を守り続けた理由を紹介しよう。
「酒米」とは
日本酒を醸造するために使われる米が酒米だ。蒸した米に麹を仕込み発酵させることで、米に含まれるでんぷん質が糖化し、糖分がアルコール化し酒となる。食用の米も酒米として使われるが、じつは「食べておいしい米」と「醸して旨い酒になる米」は異なる。
よい酒米の条件には、1.粒の大きさ、2.心白(しんぱく)、3.たんぱく質含有率の低さ が挙げられる。
米の表面付近に多い脂質やたんぱく質は、雑味のもととなってしまう。そこで米を蒸す前に、表面を磨く精米が行われる。食用米では精米歩合が90%程度(約10%を削る)だが、酒米では本醸造酒で70%以下、吟醸酒では60%以下、大吟醸では50%以下まで削る。山田錦のような酒米は大粒で、より高度な精米が行えるのだ。
山田錦は大粒で心白も大きい
心白とは米粒の中央の白い部分のこと。でんぷん質が粗いため光が乱反射して白く見えるのだが、吸水率が高く麹菌が中に入って繁殖しやすくなる。
さらに麹の働きを促進するカリウムやマグネシウム、リンなど、ミネラルが適量含まれていることなども求められる。
“酒米の王者”と称される
上記の条件を満たす希少な米は、特に酒造りに適した米として「酒造好適米(しゅぞうこうてきまい)」と呼ばれる。「雄町」「五百万石」「美山錦」などが知られるが、なかでも長年高い評価を得てきたのが山田錦だ。
「山田錦が優れているのは、なんといっても大粒で心白が真ん中にあることです。ほかの米では砕けてしまうような高精米に耐えられるのです」(JA全農兵庫・兵庫県米麦部吉仲栄造さん)
六甲山系の北側は酒米の生育に適している
古くから優れた米の産地として知られてきた兵庫県は、夏季の昼夜の気温差が10℃以上になる気候や、水分・養分を保持しやすい粘土質の土壌などが揃っており、山田錦の生育にも適している。
酒造家からの山田錦への支持の証ともいえるのが、全国の酒蔵が“蔵の誇りをかけた逸品”を出品する「全国新酒鑑評会」だ。たとえば平成26年酒造年度の全出品の84.5%、金賞の89.3%が山田錦で醸された酒。例年出品される酒の約8割、金賞を受賞する酒の約9割が山田錦を使っているのだ。
進化する「兵庫県産山田錦」
山田錦への変わらない評価は、山田錦自体の進化によるところもある。
山田錦にも、需要が下がった時期がある。日本酒の人気減退の影響から、平成10年には30万俵(約1万8000t)あったJA全農兵庫への注文が、平成22年には17万俵(約1万t)まで落ちたのだ。危機感をつのらせた兵庫県では「兵庫県産山田錦」のブランド化を目指し、平成23年度から選米のふるい目を従来の2.00mmから2.05mmに変更、生産農家に種子更新を呼びかけるなど、品質をさらに高める取り組み「グレードアップ兵庫県産山田錦」を行っている。
兵庫県の山田錦栽培農家は自家採種ではなく、配布される種子で栽培を行っている。「兵庫県には、県外には出していない山田錦の原種があります。常に原種からつくられた種子を使う種子更新により、山田錦本来の特性を守っているのです。ふるい目を大きくしたことで2.05mm以下の米は出荷できなくなりました。しかし、これで『兵庫県産山田錦』の粒張り、粒ぞろいがよくなり、酒造りには大きなメリットです」(吉仲さん)
近年の吟醸酒ブームにより山田錦への需要は再び高まり、供給が追いつかない年もあったが、ふるい目などの基準を緩めることはなく、あくまでも品質にこだわり続けている。
需要の高まりの影響で、ここ3年ほどは兵庫県外の山田錦生産も増えてきた。また近年は、地元産の米を使った日本酒への人気から、全国各地で独自のブランド米の育成も盛んだ。しかし、兵庫県産山田錦の“王者”の地位はゆらがないと思われる。
「やっぱり『兵庫県産山田錦』と言ってもらえるよう、これからも取り組みは続きます。また、今年5月には神戸市で世界最大規模のワイン品評会『インターナショナル・ワイン・チャレンジ(IWC)』の『SAKE部門審査会』が開催されるので、山田錦を世界にもアピールしたいですね」(吉仲さん)