愛媛県に、「丸ずし」という郷土料理があることをご存知だろうか。
発祥は、四国のなかでも独特の食文化を築いてきた愛媛県南部の南予(なんよ)地方に位置する宇和島。一見、お寿司や押し鮨のように見えるが、なんと米を使わない“すし”なのだ。
シャリ部分は、豆腐づくりで出たおからに、みかんの皮、ネギ、砂糖、塩、酢、白ゴマを混ぜたもの。ネタには酢締めした魚(イワシやキスゴ、サバ、キビナゴなどの青魚のほか、タイやカマス、キスなどの白身魚)を使うという、なんともヘルシーな郷土料理。一般的な寿司と同じくらいの食べやすいサイズで、形はすこし丸みを帯びている。
宇和島で40年続く割烹料理屋「ほづみ亭」では、季節によって獲れる魚をネタに丸ずしを提供している。この日のネタは、カマス。口に入れると、キリッと効いたネタの酸味に、ほんのりと甘じょっぱいおからがやさしく包みこみ、絶妙な味の調和をもつ。
川沿いにある「ほづみ亭」
ほづみ亭のご主人・石丸正敏さんによると、「丸ずしを頼むお客さんは、酒の肴にチビチビとやっているよ」といい、主食というよりは、“酢の効いたおかず”という位置づけだそうだ。
「宇和島は、かつては貧しい地域だったと聞いている。米に恵まれなかった南予の庶民が、米の代わりにおからを代用して作ったのがはじまり。手に入りやすい食材から、先人たちが知恵を絞って考えたんよ」と石丸さんがその伝来を教えてくれた。
「ほづみ亭」ご主人の石丸さん
南予の宇和海は、魚の宝庫。リアス式海岸の入り組んだ海岸線と黒潮の支流が入り込む環境から、多種多様な魚が水揚げされ、真珠をはじめ、ハマチやフグ、鯛、カレイ、アジなどの養殖地としても知られる。丸ずしのネタによく使われるカタクチイワシも、宇和海の名産だ。この地方では、頰(ほお)が垂れるほど美味しいことから、別名を「ホータレ」と呼ぶほどだという。刺身や天ぷらにして食べるほか、みりん干しや塩辛などにも加工される。
宇和島には他にも、そうめんの上に鯛の姿煮を豪快に盛り付けた「鯛そうめん」や、細く刻んだ山こんにゃくの上に、白身魚のそぼろや薬味、みかんの皮などを4色に区分けして盛り付けた「ふくめん」など、冠婚葬祭などの祝い事には欠かせない、盛り付けが豪華でユニークな郷土料理が伝わる。
海と山に恵まれた豊かな自然があってこそ生まれた南予の郷土料理の数々。そして、どれもヘルシーときているのだから、愛媛へ行く際には、ぜひ食べてみてほしい。
住所:愛媛県宇和島市新町2-3-8
TEL:0895-22-0041
営業時間:11:00~13:30/17:00~23:00
定休日:日曜日・連休最終日