【歴メシを愉しむ(103)】菜飯の春おにぎり

カテゴリー:食情報 投稿日:2021.04.03

ぽかぽかと心地よい日が多くなってきた。こんな春らしい陽気の日が、仕事のない平日であればなお嬉しい。ササッと作ったおにぎり、淹れたてのお茶を入れた水筒、読みたかった本をリュックに詰め込み、ご近所の甲山森林公園へ歩いて行き、お気に入りのベンチで食べる。うっとうしい禍の日々の気を晴らしてくれるささやかで、楽しいプチ遠足である。

 

春の風味を楽しむ菜飯

「ササッと作ったおにぎり」と書いたが、長年の仕事上のクセと元来の性格からくるこだわりが出て、ササッとは作れない。それは何もインスタ映えを狙って姿形にこだわるなどではない。毎度 食に関しては、季節、歳時記、食の歴史・文化など、何かしらのテーマ性を持たせようとしてしまうのだ。さらにそれを食べる時、その時代の人や本に出てくる人物になり切って食べたい…やれやれ、我ながら困ったものだ。

というわけで、今回のおにぎりは、この時節にふさわしい「菜飯」にすることにした。

「菜飯」は、「青菜飯」とも呼ばれ、刻んで塩もみした青菜(サッと塩茹でにする方法もあり)を、塩味で炊いた飯に混ぜたもの。青菜には、大根や蕪の葉なども用いるが、「菜飯」は春の風味を賞する一品ともされており、「菜飯」や「嫁菜飯」は春の季語ともなっているので、ここはぜひ菜の花(油菜とも)や嫁菜で作りたい。

 

江戸時代の旅人気分で菜飯田楽を

「菜飯」は、古くは『鈴鹿家記』(京都吉田神社神官・鈴鹿家の記録書)の1394(応永元)年の記事にも載っているが、広く庶民に親しまれるようになったのは江戸時代。

江戸初期から、「菜飯」と「田楽」を一緒に味わう風習が生まれ、「菜飯田楽」と呼ばれるようになる。寛永の頃(1624~44年)には、腰掛茶屋で売る菜飯に田楽が添えられるようになり、中でも東海道五十三次の宿場の一つ、第五十一宿・石部(近江国・目川/現在の滋賀県栗東市目川)の「菜飯田楽」が有名で、旅人に人気があった。

この時代に、「菜飯」と「田楽」がいわゆる定食スタイルとして名物になっているのが面白い。豆腐田楽に添えられた濃くて甘い八丁味噌と、塩味の菜飯のマッチングが人々に好まれたのだろう。江戸時代前期には江戸へも伝わり、八代将軍・徳川吉宗の頃(1716~45年)には、浅草にも目川菜飯屋があり流行したのだという。

これらの名物店は、私の愛読書である池波正太郎の時代小説『剣客商売』『鬼平犯科帳』『仕掛人 藤枝梅安』にも登場している。

さて、塩茹でにして刻んだ菜の花をご飯に混ぜてむすぶだけなので、一応「ササッと作ったおにぎり」はできたものの、やはりここは、田楽を一緒に頬張って、江戸時代に街道の茶屋で食べている旅人気分になりたい。もめん豆腐を炙って、市販の田楽味噌を塗った豆腐田楽をタッパーに詰め、せっかくだからと、日本酒専用スキットルに一合ほどの日本酒を詰め、持参する本は『剣客商売』に変更し…などとしていたら、すっかりお昼を過ぎてしまっていた。

歳時記×食文化研究所

北野 智子

 

発酵手帳2021、大好評発売中!

365日その季節に合った発酵食品のレシピや、小泉先生のコラム、付録には発酵食品をいつ作ったらよいか一目でわかる「発酵カレンダー」、発酵食品を作った際の日時、温度、分量などを記録できて次に役立つ「発酵手仕事」、「味噌特集」など、発酵食品好きにはたまらない「発酵手帳2021」が3年目を迎え、さらにパワーアップして大好評発売中!ぜひお役立てください。Amazonで大好評発売中です!

 

 

  •                    

\  この記事をSNSでシェアしよう!  /

この記事が気に入ったら
「いいね!」しよう!
小泉武夫 食マガジンの最新情報を毎日お届け

この記事を書いた人

編集部
「丸ごと小泉武夫 食 マガジン」は「食」に特化した情報サイトです。 発酵食を中心とした情報を発信していきます。

あわせて読みたい