雛祭りで飲む白酒とは
ところで雛祭りは、すでに奈良時代に、上層階級の子女が優美な雛飾りを競い合い、貴族や武士家庭を招待したことに始まるが、当時すでに白酒が用いられていた。その理由は明らかではないが、大昔からあった濁酒(にごりざけ)がアルコール分と酸味を多くした辛口の酒で、酔うのを目的にしているのに対して、白酒は甘味を多く残してアルコール分を抑えた、いわば女性のための酒なのである。
妖しい魅力を持つ白酒
では、その酒の色が白であるのは何故なのだろうか。昔からこの辺も定かではないのだが、これはおそらく、雛祭りにつきものの桃の花の色と深く関係づけられていたのではあるまいか。雛祭りは一名を「桃の節句」ともいい、今日でも雛壇の前にまず活けられるのは桃の花である。この清楚な艶々しい枝の感触はまこと少女の玉の肌を思わせ、ふっくらとして柔軟な色感を見せる花は、少女の純な恥じらいを表徴しているかのようである。だからこそ桃の花は、3月の節句に相応しいものであるとされたのであろう。実はそればかりでなく、昔から桃は邪気を払う長寿延命の霊木とされていて、「もも」が「百歳(もも)」を表わす縁起の良さからも、節句の花とされてきたのである。
そういう意味をふまえながら、白酒の上に桃の花びらを浮かばせ、花と一緒に白酒を飲んで長寿延命、万病の薬にしようとしたに違いない。そんなとき、澄んだ酒よりも、純白無垢の酒に妖しいほどに美しい色彩を持った桃の花を浮かべたほうが、遥かに女性的優美さを演出でき、結局は視覚からも心身ともに清浄であるという心を宿させることができたのである。そのようなことから、雛祭りには白い色の酒が必要であったと私は考えるのだが、いかがなものであろうか。