『小説の主役は極上粗料理(2)』(湯川 豊 評)

カテゴリー:発酵仮面, 著書 投稿日:2019.02.20

小泉先生の最新刊小説『骨まで愛して 粗屋五郎の築地物語』が評判になっています。

毎日新聞の「今週の本棚」(2019.1.20)で紹介されました!昨日の続きを掲載いたします。

 

 鰤(ぶり)の粗を使った鰤大根。真鯛(だい)の頭を2つに割った粗煮。このへんはふつうの料理であるが、その先がすごい。鰹(かつお)の腹皮(はらかわ・砂ずり部分)を皮ごと切りとって生姜(しょうが)汁に漬け焼いたもの。烏賊(いか)の腸(わた)煮。イカの腸を取り出し、身をぶつ切りにしてバターで炒め、それに腸をからめる。大好評でアッというまに無くなった。最後は「紅焼大魚白翅」つまり中国料理の鱶鰭(ふかひれ)の醤油味の姿煮。高価なものだが、いわれてみればこれも粗煮の1つである。

 酒は河豚(ふぐ)の鰭酒、甘鯛の骨酒、食後酒はなまこのコノワタ酒と、粗がらみに徹底。

 五郎には、粗屋をひらく決心をしてから、熱心に書き続けてきた備忘録がある。「粗の色」とか「魚の構造と粗の部位」とかに区分けしてあり、たとえば「骨料理」の部では、鯒(こち)の骨飯(ほねめし)、鰻骨(まんこつ)、赤魚(あこう)鯛の骨汁などと並んでいる。

 何も宣伝しないのに、右肩上がりの繁昌ぶりで、さまざまな客が来店、その客たちとの繋(つな)がりが、ストーリーの展開になる。なかでも面白かったのは、鶴賀律太夫という新内節の家元。興至れば店で哀切な新内節を唄ったりする。もう1つ、築地市場の粗処理業者が、粗でいい堆肥(たいひ)をつくって、有機野菜の生産に役立っている話なども興味深かった。

 むろん客とのエピソードと共に、新しい粗料理もぬかりなく紹介される。たとえば、鰹の塩辛から、とびきりのラーメンの出汁(だし)をつくる。あるいは鰹の塩辛醤油を干し大根に塗って、焼き大根にする。読んでいて、いかにもうまそうだなあと感嘆するのは、著者の粗哲学にすっかり洗脳されてしまったせいか。

 多彩な人物を登場させる小説的工夫は買うけれど、やっぱりこれは極上の粗料理こそが主役、こんな店があったら今日にでも行きたくなる」

(湯川 豊)

 

出版社:新潮社

価格:1,404円(税込)

 

※本記事を毎日新聞社に無断で転載することを禁じます

 

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