日本人はスズメやカラスまで食べていた
肉類が忌避(きひ)されてきたかつての日本でも、鳥類はよく食べられていました。これは、日本が野鳥の多い国土であることと無縁ではありません。日本の国土は大半が山や林なので、その気になればさまざまな鳥を捕まえることができます。よく食べていた鳥類は、カモ、キジ、ウズラ、シギ、ツグミ、ヤマバト、ヒヨドリ、ガンなどです。スズメやカラスまで食べていたのですから、二本足の鳥類にはどん欲だったことがわかります。中でも鶏は卵を産むので、毎日タンパク質を生み出す生き物として珍重されました。
鳥肉の食べ方の基本は、串に刺して塩やタレをかけて焼く食べ方です。いわゆる焼き鳥 ですが、串焼きは日本人の得意な料理法で、魚を火であぶって食べた経験の応用が肉類でも行われたと考えることができます。
陰で獣肉を食べる文化も
一方、動物の殺生が禁じられていた江戸時代でも、陰に隠れて獣肉を食べる人たちがいました。これは、マタギなど山の獣を狩猟する職業の人々がいたためでもあります。特に好まれたのはイノシシで、別名を「ヤマクジラ」と呼ばれました。これは山に住む鯨であるから問題ない、と言い訳をして食べていたのです。京都の丹波地方ではよくイノシシが獲れたので、今でも京都にはイノシシを食べる文化があります。
しかし、獣肉は庶民一般が食べていたわけではありません。イノシシの肉を「ぼたん」、シカの肉を「もみじ」といった隠語で呼んでいたのは、やはり世間とは一線を画した特殊な食べものであったからでしょう。
そのほかの獣肉としては、クマ、野ウサギ、シカ、タヌキ、カモシカ、テン、ムジナなどが食べられていました。
小泉武夫