スペインのお米料理といえば、パエリアが定番。味付けが濃く、オリーブオイルもたっぷりと使われているため、日本人が連日パエリアを食べると胃がもたれがち。しかし、スペインのお米料理はパエリアだけではない。日本人が親しみやすいお米料理が、実はスペインではパエリア以上に庶民の味になっている。
雑炊のようなお米料理
それが、“スペイン風雑炊”とも言える「カルドソ」と「メロッソ」。
「カルドソ」はスープたっぷりで、まさに“雑炊”。「メロッソ」はカルドソよりも少ないスープで調理するため、リゾットのような見た目。最初に生米を炒める際にオリーブオイルを使うが、スープで煮込むせいかパエリアよりも胃に優しい。スペインの「アロセリア(お米料理専門店)」では、メニューの「アロス(お米)」のページにパエリアと一緒に当たり前に並んでいる。
「そうは言っても、スペイン人は毎日パエリアを食べているんでしょう?」と思う人もいるかもしれないが、稲作が盛んなバレンシアのエル・パルマール村でお米農家のジョセップ・ロストール・フエンテスさんに聞くと、「パエリアを食べるのは日曜日だけ」と言う。平日は「カルドソ」か「アロス・アル・オルノ」を食べているそうだ。
ジョセップさん愛用鍋「カスエラ」
アロス・アル・オルノとは、「カスエラ」という陶器の茶色い鍋を使ってオーブンで炊き上げる“スペイン風炊き込みごはん”。パエリアよりも手軽に作れる家庭料理で、ジョセップさんの場合は牛肉や鴨肉のほか、じゃがいもなどの野菜も入れるという。
市場の惣菜店
他にも、茹でたお米に揚げ卵やトマトソース、揚げた青バナナか焼いたソーセージを乗せた「アロス・ア・ラ・クバーナ(キューバ風ライス)」という“スペイン風のっけ丼”もスペイン人の日常食。茹でたお米と野菜と豆を和えたライスサラダも食卓の定番だ。日常の食卓に手軽さを重視するのは、万国共通のようだ。
日本で「スペイン料理と言えばパエリア」というイメージが定着しているのは、海外で「日本料理と言えばSUSHI(寿司)」「日本料理と言えばNOODLE(ラーメン)」というイメージが定番になっていることと同じかもしれない。
多くのスペイン人が毎日パエリアを食べているわけではないように、多くの日本人も毎日寿司を食べているわけでもなければ、毎日ラーメンを食べているわけでもない。
日本のスペイン料理店では、パエリアを提供している店 が多いように、海外の日本料理店では寿司やラーメンを提供している店が多い。
食文化のイメージは、飲食店を通して広がっているのだ。
雑炊のようなお米料理は、ほっとさせる味わい
その国のリアルな食文化を知るには、やはり日常の料理。日本人が親しみやすい“スペイン風雑炊”を食べてみると、そのほっとする味わいににわかにスペインに対して親近感がわくに違いない。
取材/文:柏木智帆