遺伝子が決める最後の晩餐【小泉武夫・食べるということ(14)】

カテゴリー:食情報 投稿日:2017.08.23

三日間続く最後の晩餐!?

最後に、少し余談になりますが、私が考える「遺伝子の声」について、お話したいと思います。

自分の遺伝子には、どんな食べ物が合っているのか? 体の内側から声が聞こえてくるわけではありませんが、遺伝子に合う食べ物は、“最後の晩餐”を考えたときに思い浮かぶのではないでしょうか。

人生で最後の食事。そこで何を食べたいと思うか。その選択には、自分の人生や考え方の原点が反映されると思うのです。そして、最後の食卓に上って欲しいと思ったメニューこそ、自分の遺伝子が要求する食べ物ではないかという気がするのです。

私の場合———。最後の晩餐と言いながら、食いしん坊の私は一つに決めることができないので、晩餐は三日間続きます(どうか特例を認めてやってください)。

第一日目の献立は白菜の塩漬け。芯に近い、黄色くて柔らかな葉っぱの部分をギュっと絞って、醤油を数滴垂らし、そこに炊きたてのごはんをくるくると巻いて食べる。もう、考えただけで口の中で唾が湧いてきます。

第二日目は、鰹節です。細かくみじん切りにしたネギを、削りたての鰹節と一緒に交ぜて醤油をかけ、炊きたてのごはんの上にのせて食べる。想像しただけで、お腹がぐぅと鳴りそうです。

そして、いよいよ三日目。大好物の納豆にしようか、とも考えたのですが、私は毎日納豆を食べています。ということは、最後の晩餐が始まる前日にも、間違いなく納豆を食べているはずなのです。納豆は却下。代わって選ばれた料理が、鯨のペッパーステーキでした。

 

最後の晩餐は遺伝子の声

鯨の赤身の肉をフライパンで一分くらい焼いて、表面の色が変わったらひっくり返して、また一分焼く。そこにコショウを振るのですが、ミルで挽く高級なコショウではダメ。ラーメン屋さんのテーブルに置いてあるような、小瓶に入った安いコショウがいいのです。これをたっぷり振りかけて、その上から醤油をジュワッと回しかける。焼きあがったら、炊きたてのごはんをよそった丼の上にのせ、フライパンに残った焼き汁を肉の上からかける。一、二日目に比べたら、少しカロリーが多いけれど、もう明日はないんだから、気にしないで食べちゃう!

白菜の塩漬け、鰹節、鯨肉、醤油、そして炊きたてごはん……。どれも、私たちにとっては子どもの頃から食べていたもので、自分の食生活の原点ともいえるものです。人生の最後に食べたくなるものへの欲求は、自分の体をつくった遺伝子の声でもあると、私には思えてくるのです。

小泉武夫

 

※本記事は小泉センセイのCDブック『民族と食の文化 食べるということ』から抜粋しています。

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編集部
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