牛乳を飲むとお腹を下す理由
牛乳を飲むと、お腹がゴロゴロするという人も多いのではないでしょうか? その理由は、胃腸が弱いからではありません。日本人だから、お腹がゴロゴロするのです。
食文化の歴史から言えば、日本人が牛乳を飲むようになったのは、つい最近のことです。日本で本格的な酪農が始まったのは、明治時代のこと。乳牛であるホルスタインが大量に輸入されて、一般の人が牛乳を飲むようになったのは、戦後になってからです。
日常的に牛乳を飲んでいなかった日本人の体は、乳糖を分解するラクターゼという酵素の活性が十分ではありません。赤ちゃんのときは母乳で栄養をとりますが、乳離をするころには、ラクターゼの働きが自然に低下するのです。人によっては、牛乳を飲み続けることでラクターゼが活性化するケースもありますが、生物学的に言えば、成長とともに牛乳が飲めなくなるのは、日本人にとってごく普通のことなのです。そのため、牛乳を飲むと体は異物が入ってきたものと思い、早く体の外に排出しようとして下痢を起こしたりするわけです。
遺伝子と食の深い関係
さて、ここで私がお話ししたいのは、遺伝子のことです。どんな民族でも、長きに渡って口にしてきた食べ物があります。遺伝子というのは、長く食べ続けてきたものに対して、もっとも適応性があるということを忘れてはならないと私は思います。
遺伝子には、二つの種類があります。一つは民族の遺伝子です。たとえば、日本人が1000人集まったとします。その人たちの顔を見たときに、私たちは「みんな日本人の顔をしているな」と感じるものです。これは、民族の遺伝子が顔の特徴をつくっているからで、アメリカ人でも、ロシア人でも、中国人でも、同じことが言えます。
いま一つは、家族の遺伝子です。子どもの顔が親に似たり、性格が似たりするのは家族の遺伝子を受け継いでいるからですが、ここでは家族の遺伝子の話はさておき、民族の遺伝子と食の関係についてお話していきます。
日本人の腸は、欧米の人よりも長いということをご存じでしょうか? これは、動物性の食事を中心とした民族と、植物性の食事を中心とした民族の“差”だとされています。繊維質を多く取る民族は、ゆっくり時間をかけて食べ物を消化しなければならず、それが腸の長さに反映されていると考えられています。
また、菜食の歴史が長い日本人の体は、肉ばかり食べているとアシドーシスという症状が出ます。これは血液が酸性化して、中枢神経の活動が鈍くなる状態のことです。さらに、肉食が多い人ほど、直腸がんになる確率が高くなることも医学的に証明されています。
民族の遺伝子に逆らった食生活が、いかに怖いことであるか。それを現代の日本人は、自分自身の命の問題として、もっと真剣に考えるべきだと私は思うのです。
小泉武夫
※本記事は小泉センセイのCDブック『民族と食の文化 食べるということ』から抜粋しています。
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