令和元年の6月初旬。てらやま農園の田植えも残りわずかだと聞きつけ、急いで取材に向かいました。そこには、最新のGPSが搭載されたハイテク田植え機に乗って颯爽と田植えをする寺山將之さんの姿がありました!
この田植え機はGPSだけでなく、他にも優れた機能が満載だというのですが、それはもう少し後のお話。まずはてらやま農園が田植えを迎えるまでに、約2ヵ月かけてじっくりと準備してきた苗のお話から始めましょう。
4月下旬・温湯消毒
田植えの約2ヵ月前。4月下旬にてらやま農園では、乾燥もみをお湯に浸す「温湯消毒」を行います。乾燥もみの消毒は農薬を使うのが一般的ですが、てらやま農園では60℃のお湯に10分間浸けて、ただちに冷水で冷やすという手法でカビや細菌を死滅させているのです。
農薬を使わず手間暇かける
そのまま水をはった水槽にもみを入れ、はとむね程度に芽を育てます。
「もみから芽が出る3要素に、水分、温度、酸素があります。ですから水に浸したら、積算温度を計算するんです。積算温度が100℃になると、程よく芽が育ってきます。だいたい8~9日間でしょうか。
その間、水の中の酸素がなくなってしまってはいけないので、何度か水を入れ替える必要があります。種を育てるのも、なかなか手間がかかるんですよ」
5月初頭・種まきと苗だし
種もみが育ってきたら、播種機を使って種をまきます。
播種機が大活躍
種まき完了!
播種後、芽が1㎝程度に伸びるまでビニールで覆って苗出しをします。
「ここでも温度の管理が大切です。よく近所の農家仲間でも『芽が出ない』と心配している人がいますが、そういう人は温度計算をしていません。だから、いつ播種したのかを聞いて積算温度を計算してあげるんです。やはり積算温度100℃程度で程よく芽が出てきますから、この地域の気候だと3~5日程度ですね。」
ビニールで覆うのも一苦労
5月中旬~下旬・苗を育てる
苗の芽がでたら、田植えができる程度(12~13㎝程度)まで苗を育てます。「苗代」と呼ばれる、田植えまでの間に暫定的に苗を育てるための田んぼに並べて、保温マットをかけます。ここでも積算温度を計算しながら、10㎝程度まで育ったころにマットを外し、いよいよ田植えの準備に入ります。
「この辺の平均だと、播種後20日~25日で田植えになります。いつ田植えをするかは苗の状態によって変わるので、苗の成長具合と天候を見ながら逆算して田植えの準備を進める必要があるんです。」
じっくり苗を育てる
5月下旬・代掻き(しろかき)
田植えの5日ほど前に、いよいよ田んぼに水を入れて、田植えの本格的な準備が始まります。水を入れたら「代掻き」といって、機械で土をかき混ぜて田んぼを均平にするのだそうです。こうすることで雑草除けになり、苗の根付きもよくなるそうです。
「横2回、縦2回くらいかき混ぜると、土に粘り気が出てきます。子供の泥遊びと同じですよ。泥団子を作るにも、よくこねるでしょう? ここは手を抜かず、絶妙なかき混ぜ加減にすることが米作りのポイントです。」
5月下旬~6月初頭・田植え
こうしてじっくり準備を進めてきて、いよいよ田植えの日を迎えるのです。
てらやま農園の田植えは「側条施肥」です。田植え機が苗を植えながら、そのすぐ横に肥料を撒いて、土をかぶせて埋めてくれるのです。
苗と肥料を同時にセット完了!
「うちの田植え機は側条施肥ができるタイプです。苗のすぐ横に肥料があるから、田植えした直後の、根を張る前から成長が非常に良くなります。それに、田んぼによって土の質の差があるので、うちの田んぼでも場所によって出来不出来に差があるんです。そのため肥料の量も、場所によって少しずつ調節しているんですよ」
それにしても、將之さんの田植えの様子を見ていると、様々な機能が搭載された田植え機の進化に驚かされます。
よく見ると様々な機能が……
「上部に付いているのがGPSです。田植えをしていると、一種の船酔いのような状態になって、ひどく曲がってしまうことがあります。それを防ぐために、GPSがまっすぐに保ってくれているのです。左にあるゴロゴロ回っているタイヤのようなものは、次に植える際の中心線の印をつけてくれています。右にあるセンサーは隣の苗との距離を一定に保ってくれるものです。」
まさにハイテク田植え機でした!
てらやま農園の田植えに密着した感想は、「苗のために良いことなら、昔ながらの技術から最先端技術まで貪欲に取り入れる」という、非常に柔軟で積極的な姿勢でした。これは農業にとどまらず他の分野でも同じことが言えるのではないでしょうか。