埼玉県北部で、昔ながらの食文化を守るてらやま農園。200㎞もの距離を走りぬくウルトラマラソンのランナーである父・卓さんを筆頭に、ラグビーのクラブチームで活躍する子供たちを抱えるアスリート一家でもあります。
そんなアスリート農家ならではの視点で食を通した身体づくりをモットーに、地元の子どもたちのために田植えや稲刈りの体験会を開催したり、講演会を行うなど、地域の食育に積極的に貢献している農家です。
5月も後半に差し掛かり、いよいよ令和初の米作りがスタートします。そこで編集部ではここから半年かけて、てらやま農園の米作りに密着取材することにしました。初回は、寺山將之さん・寺山亰乎(きょうこ)さんご夫妻に、土づくりについてお話を伺いました。
寺山亰乎さん、將之さん夫妻
土づくりの要は発酵の力!
てらやま農園の土づくりは、前シーズンの稲刈りから始まります。脱穀して残った稲わらは「全量還元」と言って、すべて5㎝くらいに切断してから、稲刈り後の田んぼに撒くのだそうです。そのまま土と良く混ぜ、半年程度かけて発酵させていきます。
年が明けた2月~3月頃、発酵鶏糞を田んぼに撒いてよく耕し、田植えまで3ヵ月程度かけてじっくり土になじませます。昔は牛や馬を飼っていて、そのたい肥を使っていたそうです。しかし、近年は発酵鶏糞を使用するようになりました。
「発酵鶏糞の力はすごいですよ。うちでは何年もかけて発酵鶏糞を使った土づくりをしてきました。その効果を実感したのは数年前、記録的な猛暑の年のことでした。
この辺りは熊谷市と隣接していますから、日本で一番気温が上昇する地域の一つなんです。気温が高いと稲が高温障害を起こし、どの農家も品質が落ちてしまいます。そんな中、うちの米だけが一等米を獲得したんです。埼玉県の農林振興センターから『どうやって栽培しているんですか』と電話がかかってきました。その時に、改めて発酵パワーのすばらしさにを再認識しました」
発酵鶏糞
水田周りから美しく
発酵鶏糞とともに、もう一つてらやま農園が大切にしていることがあります。それは、除草剤の代わりに「ヒメイワダレソウ」という植物を使って、水田周りの環境を保持することです。
水田周りを放っておくと、夏場になると雑草が生い茂ってしまい、水田への出入りがしにくくなってしまいます。ですから、多くの農家では水田周りに除草剤を撒いて雑草を枯らし、土をむき出し状態にして保つのだそうです。水田の中に除草剤を撒くわけではないから大丈夫だと一般的には言われていますが、すぐ横を通る用水路に除草剤が染み出し、作物に多少なりとも影響を与えるのではないかと、てらやま農園では考えています。
一般的な農園の水田周り
そこでてらやま農園では、除草剤に頼ることなく出入りがしやすい状態を保つために、ヒメイワダレソウという植物を水田周りに栽培しています。
ヒメイワダレソウは背の低い植物なので、水田の出入りの邪魔になりません。初期の水やりや雑草取りなどの管理を丁寧に行えば、しっかりと根を張り巡らせるので、他の余分な雑草が生えてこなくなるそうです。
しかもヒメイワダレソウは水を嫌うので、田んぼの中まで入ってきて稲のための栄養を横取りすることもありません。まさに、水田周りの環境づくりにピッタリの植物といえます。
てらやま農園の水田周り
「ヒメイワダレソウは便利なだけじゃなくて、本当に可愛い花を咲かせるでしょう?
私たちのこだわりは、水田周りから美しくすることです。水田の中の土ばっかり発酵鶏糞で豊かにしたって、水田周りが雑草だらけで汚いのではダメだと思うんです。私たちは他でもない、日本の主食を作っているのです。だからこそ、私たちは環境のことは大切にしていくべきだと考えているのです」
ヒメイワダレソウの花
「私たちは長年農家をやっていて、発酵が結局のところ最先端技術だと思っています」
編集部も日ごろから発酵食品のもつ機能性や健康作用について考えてきましたが、農家の土づくりと発酵の力について教えていただいた取材でした。