納豆は腐った食べ物!?【小泉武夫・食べるということ(32-2)】

カテゴリー:食情報 投稿日:2018.01.01

発酵と腐敗の関係

 私たちが食べているものは、水と塩を除いて、すべてのものに命があります。しかし、命を生きたまま体に取り入れることはできません。たとえ新鮮な生の野菜でも、食べてしまえば細胞は胃袋の中で死んでしまいますが、唯一の例外が発酵食品なのです。

 目には見えませんが、微生物の力というのは偉大なのです。とはいえ、すべての微生物が人間の役に立ってくれるわけではありません。再び牛乳に話を戻しましょう。

 コップに注いだ牛乳を放置しておけば、空気中に漂う雑菌が侵入してきます。雑菌の働きでタンバク質やアミノ酸などが分解された牛乳は、やがて猛烈な悪臭を放ち始めます。こうなると、牛乳は毒性物質の温床も同然です。うっかり飲んだりすれば、たちまち嘔吐や下痢を引き起こすに違いありません。同じ微生物による作用でも、こちらは発酵ではなく「腐敗」なのです。

 

善玉菌と悪玉菌

 自然界に存在する微生物には、人間にとって有益なものと、有害なものとがあります。前者を善玉菌、後者を悪玉菌と呼びます。

 乳酸菌、麹菌、納豆菌、酢酸菌、酪酸菌といった微生物は、発酵の働きを持ったありがたい善玉菌です。逆に、食べ物を腐らせる大腸菌、ブドウ球菌などの腐敗菌や、病気を引き起こすペスト菌、コレラ菌、結核菌などの病原菌は、人間に害を及ぼす悪玉菌なのです。

 同じ微生物でも、善玉と悪玉がいる。そして、「発酵」とは善玉菌の働きを指す言葉であるということは、おわかりいただけたと思います−−−—。

 以上で、講義は終了。これからは先は、教室の外で話す補講です。半分は私の独り言だと思って聞いてください。

 

納豆は腐った食べ物??

 「納豆は腐った食べ物でしょ?」と思われるのは、納豆好きには実に悲しいことです。納豆は古くなるとアンモニアの匂いを発しますが、これは腐ったからではなく、自己消化という作用で、納豆菌が自分で自分の体を分解して、生命を終わらせようとしている状態なのです。もちろん食べても毒にはなりませんし、大豆の栄養価も変わらない。納豆汁などにすれば、匂いだってちっとも気になりません。

 また、冷蔵庫の中で1、2ヶ月も放っておくと、納豆はカリカリになって、表面に白い粒が付きます。はじめて見た人は、「なんだ、カビが生えているじゃないか」といって捨ててしまうかもしれませんが、あの白い粒はカビではなく。チロシンというアミノ酸の結晶で、人間の脳の細胞を活性化するといわれている物質なのです。

 私なんか、チロシンが付いたカリカリの納豆を擂り鉢で粉々にして、ごはんの上にのせて醤油を垂らし、上からお湯をかけて食べるのが大好きです。

小泉武夫

 

※本記事は小泉センセイのCDブック『民族と食の文化 食べるということ』から抜粋しています。

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編集部
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