沖縄のおばぁがこぞって使う食材とは
あるテレビ局で沖縄県の実態を調べるために、三年ほど前、私はある有名な女性タレントさんと沖縄を訪ねました。行ったのは、沖縄県でもいちばんアメリカ化した生活になったといわれる地域、沖縄市のコザです。そこの普通の家をいきなり四軒訪問して、 おばぁにゴーヤチャンプルを作ってもらうという企画でした。
そのタレントさんを見ると、おばぁは「あれれ、テレビでいつも見ているさ、どうしたのね」といいます。そこで、ゴーヤ(にが瓜)を見せて、これでチャンプルをつくってと頼むと、「つくってあげるさ」と、どのおばぁもこころよくつくってくれました。そのつくり方が、四軒ともまったく同じだったのです。
まず、ゴーヤを刻んで、ランチョンミートの缶詰を取り出します。これは豚肉を練りものにした缶詰で、アメリカの兵隊さんの野外食ですね。防腐剤と増粘剤(ぞうねんざい)、化学調味料、発色剤、塩コショウなどが入っています。フライパンで刻んだゴーヤと短冊(たんざく)に切ったこの缶詰の中身を炒め、あの薬食同源など微塵もありません。あとは、溶いた生卵をかけて綴じるだけで完成します。恐るべき手抜き料理といえるでしょう。
沖縄人を短命にした政策
沖縄の子どもたちの多くは、これをパンに挟んで弁当に持って行きます。また大人たちは、家でこれを食べながらテレビを見てコーヒーを飲む生活をしています。これが、戦後から今まで続いている、沖縄県の家庭料理の代表的な例です。
沖縄県は、昭和四七年に日本に返還されましたが、日本政府による食品の買い支えはその後も続き、沖縄県では肉や肉の加工食品が今でも格安で買えます。そのため、肉や脂の消費量が全国でダントツに高いのです。日本に返還されたあと、肉が高くならないように物価の軽減措置がとられたことが、沖縄県民に高カロリー食の摂取を続けさせ、短命にしたのだとすれば皮肉な話です。
小泉武夫