【小泉武夫・食百珍】串(くし)料理

カテゴリー:食情報
投稿日:2017.07.02

 鰻の蒲焼きと三本の串

 「串」は、細く小さく、線のような棒だが、日本人の食生活にとっては、実に大きな役割を果たしてきた裏方役者である。そこには、串を介しての日本人のさまざまな知恵と発想が理にかなって潜んでいるから面白い。

 大体、日本ほど串を使った料理が多い国は珍しい。その代表が鰻(うなぎ)の蒲焼き。この日本人好みの食べものをつくるのに、串がなかったことを想像したことがあるだろうか。

 串がなければ、実に心細くなってしまうものである。開いたものを、形よく広げたまま、一様に蒸したり、焼いたりするには、打った三本の串の役割は誠に大きいのであり、そしてその串を持って、さっとタレにつけてまたあぶり、ひょいと裏返しにする。これを箸(はし)でやっていたのでは、肉はたちまち崩れて形が損なわれるだろうから、いらいらのしどおしとなる。

 焼鳥も、あれが箸で食べるものだったら、情緒はまったくなくなる。肉や臓モツを串にさして、これに日本だけのタレ(日本酒、味醂、醤油など日本にしかない材料でつくるのがうれしい)をつけて、木炭(すみ)火でつけ焼きするあの純日本的風景。もうもうと快香を持った煙、脂(あぶら)ぎった赤提灯(あかちょうちん)、黒い煙でヤニだらけの天井の下。そんな雰囲気の中で、串をつまんで焼鳥を食う時、誠にここは日本であることを実感する。

 そして何といっても箸など使うことなく、あのアツアツの串を手に持って、口にくわえて、グイと引き抜く快感は、まさに日本人としての実感を語るにふさわしい一場面でもある。

 

 一本串と二本串

 串料理といえば、田楽焼(でんがくやき)も舌と心を踊らせる。豆腐、蒟蒻(こんにゃく)、ナスなどを串にさし、味噌をぬって、焼き上げる。魚を用いたのは魚田(ぎょでん)。大根、蒟蒻、タコ、魚肉練り製品を材料とした煮込み田楽は、通称「おでん」(関西では関東煮)として人気が高い。代表的な豆腐田楽では、豆腐を厚さ三~四分の長方形、または扇の地紙(じがみ)形に切り、一本串なら縦に、二本串なら手元に節をつけて散り松葉のようにつくったものを、末広形に開いて横にさす。

 ほかに団子、串揚げ、タコ焼き、鮒(ふな)やワカサギの雀焼き、川魚の塩焼き、イカ姿焼き、貝焼き、竹輪、きりたんぽ、炉ばた焼き、ネギ、ギンナン、きのこなどの串焼きなどと、串料理にはこと欠かない。

 

 日本ならではの串術

 串にはまた、焼いたり煮たりする時の支えとしての使い方のほかに、日本には別の大切な用途もある。鮎や鯛などの魚を塩焼きにする時、姿よく焼き上げるために行う「串打ち」。これは日本ならではの串術である。また「うねり串」とは、魚を活(い)きさと、粋(いき)さに見せるため、串を巧みに打って、魚を波打たせた格好にすること。「張り串」とは、アジやサンマなどを焼く時、ピンと体を張らせるための支串(ささえぐし)である。

 このように、日本で串が大いに発達してきたのは、串料理に合う食材が日本国中の山海に極めて豊富にあったこと、そして串料理の味付けにぴったりと合う調味料(日本酒、醤油、味醂、味噌など)が昔から醸(かも)しだされていたこと、さらに串そのものの材料となる植物、とりわけ竹がだれにでも手の届くところに自生することなどの理由からだろう。

小泉武夫

 

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