微生物の作用を巧く利用して人間生活を豊かにするのが「発酵」です。その利用は食品に限りません。環境の分野では、活性汚泥法やメタン発酵といった廃水の処理が行われ、生ごみを発酵させて得た堆肥で農作物を作る農家も増えてきました。発酵は、人間にとって重要な課題の解決策となる大きな力を秘めているのです。
現在日本では、年間約1,700万トンの食品廃棄物が排出されるといわれています。国内生産及び輸入を合わせた食料(年間約8,400万t)の2割に当たる、膨大な量です。多くの食品廃棄物や家庭の生ごみは焼却処理されますが、コストがかかり、排出される二酸化炭素による地球温暖化の促進なども危惧されます。
2007年の食品リサイクル法の改正以降、生ごみの発酵堆肥化システムが注目されています。たとえば、福島県須賀川市の株式会社三風(さんぷう)では、生ごみ、家畜糞、木屑などを発酵させて堆肥をつくっています。生産された堆肥は地元の生産農家で蕪や長芋などの育成に利用され、好評です。
食材にこだわる消費者は、化学肥料を使わないオーガニック(有機栽培)の農産物を求めていますが、発酵堆肥化システムによる堆肥はそれに応えるものでもあります。
小泉武夫
●福島県須賀川市の株式会社平和物産のスクープ式プラントによる発酵堆肥化システム「三風(さんぷう)」の例
①生ごみの投入・発酵スタート(1日目)
生ごみ、食品残渣(ざんさ)、汚泥、家畜糞、木屑などを攪拌して、発酵槽の端に投入。発酵槽の下から空気が送りこまれ、バクテリア(微生物)による発酵が始まる。含水率は70〜80%程度。
②第1次発酵(2〜6日目)
チェーンスクープ型撹拌機により攪拌され1日約4メートルずつ進みながら発酵する。3〜6日目で発酵が進み温度が70〜80℃に。含水率は発酵に最適な55〜65%程度。
③第2次発酵(15日目)
約2週間後に温度60〜70℃、含水率40〜50%程度になり、発酵が緩慢になる。15日目頃に果汁廃液、廃牛乳、家畜尿、汚水などの水分を散布して含水率50%程度にする。これを“餌”に再び発酵が盛んになり、温度は70℃前後に。
④完熟(20日前後)
発酵がほぼ終了し、無機物が産出されて完熟堆肥ができる。
※幅3m、深さ2m、長さ100mの発酵槽が4レーンあり、1日に生ごみなど120トンの受け入れが可能。年間900トン程度の堆肥が生産され、地元や県外の農業生産、緑地育生などで利用されている。
(「KAMOS 創刊号」より)