社交と人生儀礼を支える酒(1)【小泉武夫・食べるということ(26)】

カテゴリー:食情報 投稿日:2017.11.11

仲間意識とお酒

大勢でお酒を飲むことによって、仲間意識が結束するという体験も、さまざまなお酒の役割をつくり出してきました。

たとえば、昔の山村生活を調べてみると、新潟県東蒲原郡のある村では外部からの入村が認められていなかったものの、潰れた屋敷を建て替えるという名目で村人にお酒を振舞えば、暗黙のうちに入村が認められたというケースがありました。また、岐阜県大野郡のある村でも、隣組に入れてもらうためには二升のお酒を組の村人たちに振舞わなければなりませんでした。このように、地域の仲間入りをする為来(しきたり)としてお酒が用いられていた例は、日本中いたるところにあったのです。

 

出産、初節句、成人式とお酒

社交を円滑にするための役割だけでなく、人生儀礼の節目節目にも、お酒は欠かせないものとして登場してきました。まず、誕生祝いの酒。今はあまり見られなくなりましたが、かつては子どもが生まれると、神棚や仏壇にお酒を供えて無事の出産を感謝し、親戚やご近所の人たちを集めて祝いの酒席が催されたものでした。

盛大だったのは初節句です。生まれた女の子が3月3日を迎えると、大勢の客を招いて酒宴が張られました。初節句は子どもをお披露目するセレモニーでもあり、招かれた客は雛壇の前で女の子の健やかな成長を祈りながら、白酒を酌み交わしたのです。

男の子の初節句は5月5日。鯉のぼりを立てたり、武者人形を飾ったりする風習は今も残っていますが、1番の目的はやはり生まれた男の子のお披露目であり、多くの客が招かれて、盛大な酒宴が張られました。

男の子の場合、これが武士や裕福な商家の跡取りだったりすると、酒宴もひときわ豪勢なものになります。武家では祝い酒として特別注文の樽酒を親類縁者に贈ることもありましたし、商家では店の前を行き来する通行人に枡酒が振舞われたという記録も残っています。

男子が成人を迎えると、元服の儀式があります。今の成人式は20歳ですが、江戸時代の男子は14、15歳、早ければ11、12歳で大人の仲間入りを果たしたのです。

元服式というと、前髪を落として月代(さかやき)にすることはご存知だと思いますが、単に大人の髪型になるだけでなく、成人としての礼儀作法や心得が親から子へと伝授される機会でもありました。その際に欠かせなかったのがお酒です。親子の間で、親から子へと教育されていたわけです。

小泉武夫

 

※本記事は小泉センセイのCDブック『民族と食の文化 食べるということ』から抜粋しています。

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編集部
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