いま最も期待されている若き政治家、小泉進次郎さんと小誌の総合監修、小泉武夫の「W小泉対談」をお届けいたします。お二人はともに日本の未来を見据えた志(こころざし)の人。談論風発の一部始終を3日間連続で配信します!
「日本和食党」立ち上げ!?
進次郎 先生がこれから力を入れてやっていきたいことは何ですか?
武夫 やはり日本人の和食ですね。和食に帰らないとダメ。この40年間で肉の消費量が3.2倍、油の消費量が3.7倍になった。かつて低タンパク、低脂肪、低カロリーだった日本人が、この60年間で高タンパク、高脂肪、高カロリーになった。それで生活習慣病が激増。こんな例は世界の民族の中で日本人だけです。大きく変わっちゃいましたね。次の世代がそれを繰り返しちゃならないから、早く和食を取り戻そうと、「日本和食党」を立ち上げようかと思っています。
日本がおかしくなったのは、農業ほど生命維持に直結している産業はないのに、医者より下に見られた。農民がいなかったら食べられないわけですから医者は生きていけない。まず農民であり、次に医者なんだけれど、そう考えなかったから農業が軽くみられてダメになった。農業の大切さを子どもたちに伝えたいというのが、私の残された人生の使命だと思っています。
進次郎 先生、そうですよ。あらためて食に脚光を浴びせましょう。日本の超高齢化社会でも社会保障改革でも食は大事ですよ。今日は一つの解答をもらいました!
武夫 わたしの知人に熊本県知事の蒲島郁夫さんがいて、「たけモン くまモン うまかモン」という食のプロジェクトをやっているんですよ。
進次郎 「たけモン」は小泉武夫先生ですね(笑)。
プロジェクトのロゴマーク
武夫 熊本県は、若者が農業に回帰している数が圧倒的に一番なんです。若者が農業に魅力を感じ始めているということです。熊本の農業の魅力を伝えようとしょっちゅう熊本に行っています。若者はいろいろな各種学校に通っていますがなかなか就職できない。それで農業を始めてみて喜んでくれています。
進次郎 ところで先生は趣味ってあるんですか?
武夫 料理です。自宅に「食魔亭(しょくまてい)」という厨房(ちゅうぼう)をもってまして、知人や仲間たちに振舞っています。それで今度、日本橋あたりに食魔亭という店を出そうかと夢見ています。
進次郎 先生がやるんだったら、何品かつくって大皿に盛りつけて、客がそれ見て選ぶような総菜屋さんがいいですね。はやるだろうな。
※当サイトの食魔亭レシピはこちら(https://koizumipress.com/wp/archives/category/resipe)
琉球料理と泡盛を世界遺産へ
進次郎 たとえば2020年の東京オリンピックで世界から来る外国人が「日本の和食を食べてみたい」と言って来たとき、どうやって提供できるのか。食に携わっている人たちが総力をあげて取り組んで欲しい課題ですね。
武夫 でもですね、和食が世界無形文化遺産に登録されたけれど、ユネスコの登録は永久じゃないということです。過去に3例、取り消された事実があるのですよ。和食は世界無形文化遺産に登録されたけれど、まだ幾つかの心配があります。そのひとつが和食は素晴らしい日本の遺産だけれど、欧米の食生活に押されて、今やどんどん減少しているのです。最近の調査では、朝食にトーストにハムエッグという洋風派が51%、ご飯に味噌汁、納豆派が49%になっちゃいました。和食を民族の文化として保護しようとしたユネスコが、今それを懸念している。せっかくユネスコが和食を保護しようとしているのに、それに気がついている日本人は少ない。それにもう1つ、沖縄の琉球料理は、基本的にも歴史的にも和食とは違うのです。別な無形文化遺産として登録する必要があるのではないかとわたしは思っているのです。
進次郎 和食の足腰が揺らいでいるんですね。ぼくがよく言っているのは、米の普及といっているけれど、パンのほうが消費額で上回っている。それを認識しないと、いつまでも米が主食だと言ってもしょうがないですものね。
武夫 まったくその通りです。みんな和食が世界無形文化遺産に登録されたことを喜んでいるだけで、国民は現状をしっかり見直そうとしていません。わたしたち一人一人がやるべきことがあるはずです。
進次郎 先生が果たすべき使命は大きいですよ。
武夫 そうなんです。日本の将来と方向を決める政治家の先生方がもっと勉強して、進次郎さんのような人が増えると日本は変わりますよ。
進次郎 やっていることがちぐはぐだと思うのは、日本では備蓄米が余っていて、余った備蓄米を使ったらおカネ出しますからと言って使う人を探している。だったら朝ご飯を家で食べられない子どもたちに備蓄米を開放するとか。小学校でオムスビをきちんと出すとか。国を挙げて本気で取り組んだら答えは出てくるはずです。
武夫 いつも思うのですが、わたしが新しいことを提案しても、「これまでそんな例はなかった」と言って採り上げない。
進次郎 前例がなかったら前例をつくればいい。
フィンランドはエラい!
武夫 いまひとつ悪いのが、日本は議論がないに等しい、しようとしない。上意下達で上から言われたことを粛々と進めるだけ。これでは停滞します。
フィンランドは違います。経済企画庁長官(当時)の高原須美子さんが、滋賀県に日本発酵機構余呉研究所をつくってくださり、高原さんが理事長、わたしが所長で大学から5年間、出向していました。その後、高原さんがフィンランドの大使になったので、私も研究所の決済をいただくためにフィンランドに行ったりしました。フィンランドは人口が460万人、北海道の人口は570万人だから北海道より100万人以上少ない。それで北海道は毎年3000億円の近い赤字ですが、フィンランドは2兆円の黒字。
この違いは何なんだろうと行政は真剣に考える必要がありますね。
進次郎 さっきの小林一三の話(新春特別対談・中編)に戻りますけれど、人間の「本性」に合わないものをやってもうまくいかないですよ。先生がおっしゃっていることは、おそらく日本人の「本性」の問題ですね。
武夫 公人がその「本性」を感じ取っていないからダメなんです。それに日本にはまだ直さなければならないところが2つあるんです。1つは年功序列。先輩がいるから、お前はしばらく待てという年功序列。もう1つは長老支配。若い人たちのほうがいい考えを持って行動力があるのに出る杭は打たれる。昔の武士は42、43歳で家督を譲って隠居したから、若い人たちが頭角を現したんです。いまの日本は長老支配で、若い人の芽を摘んでいる。
健康寿命にこだわろう!
進次郎 いま高齢化社会と言うけれど、先生がいまの高齢者に伝えたいメッセージがあれば、何と言いますか?
武夫 一番言いたいことは、高齢者に、「健康寿命(人の手を借りなくても自立した生活が送れる状態)を上げろ!」と訴えてほしい。今の日本の平均寿命は、女性は86歳で、男性は80歳ですが、これは「実質寿命」だから、あまり意味がありません。ぜひ「健康寿命」を採用すべきです。最近、初めて発表された政令都市での健康寿命は68~72歳。低いですねえ。
進次郎 ほんとうに小泉先生の言う通りです。どれだけ長生きするのかは、心臓が動いているかどうかではない。ピンピンコロリがいいとわかっていながら、なかなか思うようにならない状況ですね。
武夫 わたしはあちこちの大学で若者たちに、食生活が大事だと力説してきました。国の力が弱っても、国民の力を高めるほうが将来の日本のためになるからです。
進次郎 20代、30代が食生活を正すなら、何から始めますか?
武夫 それは簡単です。「本物の和食」を食べることです。イワシの丸干しを焼いて食べる、キンピラゴボウの味を知り、味噌汁を食べる、漬け物を刻んで納豆と一緒に食べる。日本の原点といえるシンプルな美味しさの中から生きる力をもらう。そのレシピは無限にあります。
進次郎 先生、絶対にテレビ番組やったほうがいい。話しながら思ったけれど、番組を持ったほうがいい。それも人気のタレントなんかと一緒にやるといい。「食とはなんぞや!」を語って、日本人に知らしめていくしかありませんよ。
武夫 以前、永六輔さんがわたしに言ってくださったのは、「小泉武夫さんは箸を持った憂国の士だ」という嬉しい言葉でした。
進次郎 先生の中の「日米安保体制」は、「米」がコメなんですね。
武夫 上手い! 最後にきれいに決まりました。