「発酵新時代がやってきた」小泉武夫先生・2021年〜年頭にあたって

カテゴリー:発酵仮面 投稿日:2021.01.01

四つの大きな役割

 発酵の世界というのは、目に見えない微生物の働きを応用してきた人間の知恵の集積です。わずか1ミクロン(千分の1ミリ)、あるいは0.1ミクロンという小さな微生物がもたらす世界は、神秘的で素晴らしいものです。

 微生物には、人間の勝手な解釈からすると、善玉菌と悪玉菌の二つがあります。人間のためにいいことをしてくれる善玉菌というのが実は発酵菌、発酵微生物です。そして人間にとっていやなことをする悪玉菌は、一つは腐敗菌といって食べ物を腐らせてしまう微生物、もう一つは炭疽(たんそ)菌や結核菌などの病原菌です。

 微生物の作用を巧く利用して人間生活を豊かにする。それが「発酵」です。一般に発酵というと、話題になった塩麹や味噌、醤油、チーズなど身近な食べ物がまず思い浮かぶと思います。発酵食品はこれまで、保存が利き、そして特有の風味があることで称賛されてきたのですが、近年は保健的機能を有していることが分かってきました。例えばヨーグルトには整腸作用、がんや高血圧の予防、老化の抑制、食酢には糖尿病や肥満の防止、抗潰瘍(こうかいよう)、血中コレステロールの低下などの効能、納豆には血管内コレステロールの排除、血栓溶解、脳卒中や心筋梗塞の予防、味噌には胃がん、動脈硬化性心臓疾患、胃潰瘍や十二指腸潰瘍の予防といったことがあります。

 さらに、発酵は健康にいい食品を作り出すだけでなく、人類にとって重要な四つの課題の解決策となる大きな力を秘めています。

 一つ目は医療。発酵菌が作る抗生物質は、これまでにいくつかの伝染病から人間を救ってきました。さらに、抗がん剤、抗HIV薬、抗ウイルス剤など、難病に対する薬のほとんどが発酵生産物です。

 二つ目は食料問題。日本の食料自給率は、先進諸国の中でも大変低い数値で、食料危機は現実的な問題であります。発酵は、なんと人体に必要なブドウ糖とアミノ酸を生成することができる。地表には大量の物体が降ってきますが、その主なものは落ち葉です。例えばそれらを発酵させれば、大量のタンパク質を作り出すことも可能になるのです。

 三つ目は環境。活性汚泥法やメタン発酵といった廃水の処理は、発酵微生物を活用しています。また農業の世界では、生ごみを発酵させて得た堆肥で野菜を作る農家も増えてきました。

 四つ目はエネルギー。微生物の作るメタンガスや炭化水素(石油類似物質)、バイオマスなどの応用は、新しい持続可能なエネルギーの生産にも及ぼうとしています。

 このように発酵は人類に優しく、地球にも優しい。21世紀に最も注目される分野なのです。

 

21世紀の環境に重要な役割を果たす

 現在わたくしは、いくつかの大学で発酵学や醸造学、食文化について教えたり、東アジアの発酵食品、亜熱帯の微生物などの研究を続けています。一方、一般の方たちにも発酵文化をより広めるために、本の執筆、講演やイベント活動、農林水産省や地方自治体の施策への協力などさまざまな活動を行っております。

 わたくしが会長を務める全国発酵のまちづくりネットワーク協議会では、「全国発酵食品サミット」を毎年開催。発酵に関心のある著名人や発酵産業の専門家による講演会、地元の物産展、交流会などにたくさんの方が参加してくださっており、地方でも発酵への関心が高まっています。

 これまでに、昔から麹文化が盛んだった秋田県横手市、無塩乳酸発酵した漬物すんきが有名な長野県木曽町、西の酒どころ灘(なだ)に比して関東灘と呼ばれた千葉県神崎(こうざき)町などで開催してきました。2011年にはテーマを「発酵で復興」として、宮城県大崎市、2013年12月には鮒鮓(ふなずし)や鯖(さば)のなれ鮓で知られる滋賀県高島市。以降、石川県白山市、山梨県甲府市、長野県長野市と続き(2020年の熊本県は中止)、2021年秋には、秋田県横手市で開催する予定です。地方にはその地域特有の発酵文化がまだまだいっぱいあります。伝統的食文化を再発見し、喚起し、伝承することで地域の活性化につなげたいと考えています。

 20世紀はハードの時代といわれましたが、ソフトをないがしろにした結果、環境破壊のような弊害が生じている。21世紀はソフトで地球環境を作り直さなければなりません。その中でも発酵は大きな役割を果たすことができるのです。そのためには発酵を人類や地球を救う技術と捉え、幅広い活用に向けて、一層の研究活動や普及活動が必要です。

 このような時機の到来に合わせて、わたくしたちは2013年NPO法人「発酵文化推進機構」を設立しました。

 今後、発酵食文化などに関する講演会の実施、研究会の発足、普及活動、発酵技術を利用したさまざまな試みを行い、豊かな人類社会の構築に寄与していきたいと思っています。

(電通報No.4755より、一部改変)

 

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この記事を書いた人

編集部
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