記録的な勢力で東日本を縦断し、甚大な被害をもたらした台風19号。半年間にわたって密着取材を続けてきた埼玉県のてらやま農園の稲はどうだったのか? 編集部では台風19号が通り過ぎた翌日の13日(日)にてらやま農園を緊急取材しました。
荒川と利根川に挟まれた、埼玉県北部に位置するてらやま農園。いまは稲刈り真最中の時期。頻繁に連絡を取り合っていたのですが、まだ刈り終わっていない稲があったはず。あの稲は大丈夫でしょうか。そして、てらやま農園の皆さんは無事でしょうか。
不安な気持ちで車を走らせると、意外にも埼玉県中部~北部の国道は平常通りの様子です。特にトラブルもなくてらやま農園に到着しました。
台風一過のてらやま農園
てらやま家の皆さんは全員無事! 稲は…?!
昼過ぎに到着すると、てらやま農園の皆さんは揃って昼食を食べているところでした。全員無事で、飼っている鶏や犬、亀もみんな元気に出迎えてくれ、ホッとしました。
それでは、田植えからずっと密着して成長を見守ってきた稲は大丈夫だったのでしょうか。すぐに田んぼに案内していただきました。すると……
湖と化したてらやま農園の田んぼ
見慣れたてらやま農園の田んぼからは考えられない、すっかり変わり果てた姿がそこにありました。稲刈りが終わった部分は、もはや田んぼには到底見えず、まるで湖か、氾濫寸前の荒川のようにさえ見えました。
農道もすっかり冠水しています
寺山將之さんにお話を伺いました。
「12日の22時~23時の1時間が強風のピークでした。家も揺れて、体感としては風速35mくらいはあったのではないかと思うほどの強風でした。
荒川も利根川も、ギリギリのところでなんとか氾濫しないで持ちこたえてくれましたが、熊谷方面から流れ込む水が用水路を通って、田んぼは冠水状態になりました。田んぼだけでなく、うちの周辺地域では低地部分が冠水し、道路や住宅に被害が出ました」
稲刈りはどの程度終わっていたのでしょうか。
「全体の2/3はすでに稲刈りが終わって、出荷も済んでいました。残りの1/3を刈りきる前に台風の直撃を受けてしまった形です。ただ、うちの農園はS-GAP取得農園のため、東京2020五輪に出荷する指定を受けているのですが、そうしたブランド米は刈り終えて出荷してありました。これから刈る稲は、米粉に加工する稲などが中心でした」
それは不幸中の幸いですね。今度はどのような動きになるのでしょうか。
「とりあえず水が引くまでは動くことができないので、今日1日は待機の日になります。明日以降、水が引いてきたら、まずは排水の掃除から始めるつもりです。かなりの量の藁が、風下にあたるうちの田んぼに流れ込んできているので、排水を確保するためにもまずはそれらを全て取り除く必要があります」
流れ込んできた藁が溜まっている
倒れてしまった稲もあったようですが、どうなるのでしょうか。
「倒れなかった稲は問題ないとして、倒れてしまった稲は、乾くまで数日間待ちます。慌ててすぐに刈り取ってはいけません。涼しい時期になってきましたから、しっかり乾いてから刈り取れば多分大丈夫なのではないかと今のところは思っています。もし荒川が氾濫して、川が運んできた泥を被っていたら、全ての稲がダメになっていたことでしょう。今回は雨水と用水路による冠水でキレイな水だったので、稲自体は大丈夫です」
中には倒れてしまった稲も…
川の水が氾濫すると、作物はダメになってしまうのですね。
「今、すでに育っている稲はそうですね。今回のように大雨の冠水なら大丈夫でも、川の泥水を被っていたとしたら、もう出荷はできません。
私がまだ小学生の頃の昭和20年代に、荒川が決壊したことがありました。その時、川の泥が大量に我が家の田んぼに流れ込んだのです。その年は大変な被害に遭いましたが、翌年以降の収穫率は、それまでより格段に良くなりました。川が運んできた泥で客土した状態となり、土が良くなって、米がよく採れるようになったようです」
洪水にも、良い変化があるなんて意外です。
「そうですよ。川の水と泥は、豊かな自然の一部です。ナイル川流域で栄えたエジプト文明。チグリス・ユーフラテス川流域で栄えたメソポタミア文明。黄河流域で栄えた黄河文明。インダス川流域で栄えたインダス文明など、人間の暮らしは常に川と共にありました。
川は長い年月をかけて、川の流れの影響を受けて少しずつ移動していきます。その跡地が川の豊富な泥の影響を受けて作物がよく実るので、川の流域で文明が発達したと言われています。しかし、洪水となると被害がでてしまうので、そんなことは言っていられませんが」
綺麗な水が流れ込み、川のよう
「明日からまた頑張りますよ!」
そう言って笑った將之さんは、経験豊富で非常に頼もしいプロの顔をしていました。
今後は片付けが大変なことと思いますが、無事に稲狩りができた暁には、「てらやま農園の米作り・稲刈り」の記事としてあらためて報告いたします。