「とんかつ和幸」のエピソード
全国に280店舗(うち海外5店舗・2015年11月1日現在)を展開する「とんかつ和幸」に意外なエピソードがあるという。「とんかつ和幸」は1958年神奈川県川崎市で創業したが、当初は客足も少なく閑古鳥が鳴く状態だった。そこへお客さんのひとりがしじみ汁を付けてほしい、と。そこで、とんかつ定食にしじみ汁をつけてみたところ……。なんと千客万来の繁昌店になったというのだ。さっそく「とんかつ和幸」にしじみ汁へのこだわりを聞いてみた。
「その話はほんとうです。しじみは国産しか使っていません。大きさも粒がそろうように心がけています。産地にも足を運んで品質の確認をしています。味噌は厳選した赤味噌を使用しています」
実はしじみ汁には、千客万来になるだけの理由があった。健康食としてのすばらしい機能性だ。
貝類のなかでトップクラス
まず、しじみから。ビタミンB12、タンパク質(アミノ酸)、カルシウム、鉄分、ビタミンE、ビタミンB2、グリコーゲン、亜鉛、タウリン、オルニチンなど20種類以上の栄養成分が含まれているのだ。貝類の中でもビタミンB12はトップクラス。またタンパク質を合成するアミノ酸のうち食物からしか摂取できない必須アミノ酸も多い。ビタミンB12は肝臓に効果的で、悪性貧血によいとされている。また、飲酒後の二日酔い防止などに効くのはよく知られているところだ。
続いて味噌。言わずと知れた発酵食品の雄。大豆の発酵によってアミノ酸やビタミン類が多量に生成され、栄養価はさらに優れたものになっている。また、生命を維持するために不可欠な必須アミノ酸8種類がすべて含まれている。ほかにビタミン(B1・B2・B6・B12・E・K・ナイアシン・葉酸・パントテン酸・ピオチン)、無機質(ナトリウム・カリウム・カルシウム・マグネシウム、リン・鉄・亜鉛・銅・ヨウ素・セレン・クロム・モリブデン)、不飽和脂肪酸、食物繊維などなど。
さらに、味噌については注目すべき研究がある。渡辺敦光・広島大学名誉教授が発表した「制癌効果並びに放射線防御作用」。いまロシアなど世界が熱い視線を注いでいる。
こうしてみるとしじみと味噌の組み合わせは黄金の組み合わせであることは疑いない。日本人が昔から食べてきたメニューとして再認識する必要があるのではないだろうか。
しじみの大半は、やまとしじみが中心で宍道湖(島根県)、十三湖(青森県)が二大産地。
2014年、宍道湖漁業組合の漁獲高は3448tになり、十三湖(青森県)の2015tを上回り、4年ぶりに日本一になった。しじみは淡水(塩分濃度のきわめて低い水)域や、汽水(海水と淡水とが混じり合っている塩分濃度の低い水)湖などで生育するが、琵琶湖水系(滋賀県)にしか生息していない固有種の「セタシジミ」や「寒しじみ」と呼ばれ、網走市(北海道)の藻琴(もこと)湖で12月から1月の厳冬期に獲られるものもある(他の地域では1月~4月・土用しじみの旬は夏場)。
さあ、これからお酒などで肝臓への負担が増えるシーズン。しじみ汁で健康と幸運をもらいませんか? だからといって飲みすぎはいけませんが。
最後に耳寄りな話を一つ。しじみ汁と一緒に梅干を食べてみてください。梅干に含まれる成分がアルコールを体外に排出させるためさらなる相乗効果が得られるとか。