【特別コラム】発酵と教育

カテゴリー:食情報 投稿日:2020.01.01

発酵産業のすそ野は広い

この数年の間に発酵という神秘的な現象が世間から注目されるようになってきた。先だって『財界』 という雑誌が発酵特集をして、私が表紙を飾ることになった。特集の内容は、発酵が日本の産業を 支えるというもの。それほど発酵が注目される時代が来たのである。

発酵というと、まずは味噌、納豆、お酒、ヨー グルトなど発酵食品を思い浮かべるが、発酵食品 は発酵産業の一部にすぎない。医薬品の分野では、 抗生物質、抗がん剤、ビタミン類、ホルモン類なども発酵によってつくり出している。

化学製品も食品や配合飼料の原料になるアミノ 酸類や核酸類なども発酵が欠かせない。環境の分野でも水をきれいにして川に流す環境浄化や生ご みを土にする堆肥(コンポスト)も発酵を利用し ている。最近はエネルギーの分野でも、メタン発酵によりメタンガスをつくって発電するなど注目されている。

このように発酵を活用する分野が広がり、それにともなって発酵教育が急に盛んになってきた。 私はいま鹿児島大学、琉球大学、福島大学、別府 大学、石川県立大学などで客員教授として発酵学 を教えている。実は日本には発酵学者が少ないも のだから、私のような高齢者でも教鞭を執ってい るのである。若い人が発酵の勉強を始めても途中 で遺伝子工学などに転身するので、現場に立つ実 学者としての発酵学者が不足しているのだ。

 

発酵教育に新しい動き

それはともかく、この4〜5年で発酵教育に新しい動きが出てきた。たとえば鹿児島大学では農学部の中に焼酎・発酵学研究センターをつくって活動している。別府大学には日本で唯一 の発酵食品学科ができた。今年4月は福島大学に食農学部が新設され、すでに発酵研究所の準備に取りかかっている。県立宮城大学では今秋、市民向けの発酵学講座が開講する。東京農大の醸造科学科では酒造業後継者や味噌醤油業後継者の育成にも力を入れており、全国的に発酵学 が重要な学問になっている。

わたしが理事長を務める発酵文化推進機構も2018 年から「発酵の学校」(小泉武夫校長)を開講し、第1期の修了生61人を「発酵食品ソムリエ」として送り出し、今年も第2期生として64人を対象に開講している。

「発酵の学校」では、発酵食品という究極の自然食品の世界を教養として身に着け、微生物の神秘的現象によって人間が素晴らしい恩恵をこうむっていることを学ばせている。また、「発酵ソムリエ」としての称号を生かし、世の中に発酵という素晴らしい文化を大いに広めていただき、たとえば間近に迫った東京オリンピックが開催される来年は海外から来た人たちに日本の発酵食品を知らしめてほしいのである。

 

発酵を語れる人材の不足

最近は発酵レストランや発酵カフェ、デパー トの発酵食品売り場などが増えているが、発酵を語れる人材が不足している。そのようなところに発酵ソムリエの資格を生かして就職してはどうか、新しい人生を発酵にかけるのも面白いのではないかと「発酵の学校」の修了生に話している。

発酵学は新しい学問だが、とても古い日本の 食文化のひとつなので、これを教育に生かすのは喜ばしいことである。中学生や高校生諸君に言いたいのは、これから何を学ぼうかと考えたときに、「発酵」の二文字を頭に入れておくと将来展望も開けてくるのではなかろうか。発酵を専攻する人が少ないのに、世の中のニーズはとても大きいからだ。

発酵学を専攻して夢のある発酵食品を開発す るとか、体によい発酵食品を開発するとか、社会的貢献ができる職業を選ぶとしたら、発酵学はその道に近いと私は思う。

発酵は食文化を豊かにするだけでなく、多くの人を幸せにする力を持っている。いま、発酵を改めて教育の観点から見直すことが、大切ではあるまいか。

小泉武夫

 

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この記事を書いた人

編集部
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