日本人で一番長生きする職業は?
栄養価第一主義が、民族によっては間違っていることを証明する格好のデータがあります。今、日本人の職業のなかでいちばん長生きでき、そして罹患率の低い職業は何だだかご存知ですか。それは、僧侶(そうりょ)です。お坊さんは、平均して警察官の二分の一くらいのカロリーしか摂っておらず、極めて質素な食生活をしています。それなのに平均寿命八七歳で、日本人の男性の平均年齢より七歳も長生きしているのです。
また、こんな話もあります。江戸末期、ペリーが通商条約を結ぶために下田に来たとき、船が大きすぎて接岸できなかったので沖合に停泊しました。幕府の役人たちは瀬取り舟を出して、黒船からアメリカの外交官十人ほどを毎日岸へ運び、岸壁に並べられた人力車に乗せて会談場所の下田の寺へと走りました。異人たちが驚いたのは、人力車の車夫の働きぶりでした。小柄な日本人が大きな人力車を操って、韋駄天(いだてん)のように走るのですから、いったい何を食べているんだろうと不思議に思ったのです。ところが、見てみると握り飯しか食べていません。こんなもので、よく生きているものだと思えるくらいの粗食です。
ペリーが見た握り飯パワー
ペリーの一行は、よく働いてくれた車夫たちに感謝して、帰国の際にハムや缶詰など精のつく食べものをたくさんおみやげとして置いて帰りました。すると、それを食べた車夫たちは、翌日から体がおかしくなって仕事に来なかったそうです。こうなると、善意もかえって仇(あだ)になってしまいます。
ペリーたちが見た車夫の握り飯は、古来から日本人が食べてきた食べものです。よく、火事場の馬鹿力といいますが、日本人は米を食べるといちばん元気が出るのです。日本 人が健康なのは、西洋料理、中華料理、和食といろいろな食べものをミックスして食べているからだという説がありますが、それは正しくありません。つまり、食生活が豊かだから健康なのではないのです。また、粗食が体にいいという説も、ごく一面的な真理を言い当てているに過ぎません。
日本古来の食べものが、日本人を健康にし、元気にするのです。私たちは、そのことを忘れてはなりません。
小泉武夫