【小泉武夫・食百珍】出汁

カテゴリー:食情報
投稿日:2016.12.08

鰹節の正しい調理法

ダシ(出汁)は日本料理の妙味のひとつである。このダシという語がいつごろから登場したのかは明確ではないが、文献では鎌倉時代以後とされている。しかし、ダシが実際に使われたのはさらに古く、鰹(かつお)を煮て鰹魚(かたうお)という素干し品をつくる際の煮汁を煮つめて、これを鰹魚煎汁(かつおいろり)としたものをダシに使っていた。

今日では、鰹節や煮干し、するめのような動物性のものから、昆布、干し椎茸、乾瓢(かんぴょう)などの植物性まで、ダシの材料は多種にわたっている。

日本のダシの材料の中で、最も代表的なものは鰹節である。これでダシをとると、うま味成分だけでなく、日本食文化の原点に潜んでいるような芳香までわきでてくるところが大変良い。この点、外国の料理におけるダシのとり方が、肉やガラからうま味成分だけを抽出するのとは大違いである。

この鰹節のうま味の主成分はイノシン酸シスチジン塩で、この成分は熱湯には実によく溶ける。だから、削った鰹節を煮立った湯に入れてすぐに火を止めるか、または煮立つ直前の湯に入れて、煮立ったらすぐに取り出す必要がある。

この方法で、鰹節のうま味の九割以上は出ているから安心してよい。もし、必要以上に加熱を続けると、アク味や苦味、渋味などの不快な味が出てくるうえに、大切な芳香はどんどん発散して空中へと逃げ去ってしまう。

また、少しの鰹節では安心できぬと、たくさん入れる人もいるが、これもその心配には及ばない。むしろ、少なめの方がうま味がよく溶けだすのであって、量が多すぎると、苦味を生んでアク味が出るうえ、不必要な魚臭を放つから不利である。湯の量の1~4%がせいぜいであろう。

 

鰹節と昆布と干し椎茸の相乗効果

このように、目的のうま味成分と香りが出れば、それでもう終わりであるという日本のダシのとり方に対し、西欧料理では鶏ガラダシを例にみても、骨の髄(ずい)まで長い時間かけて煮出すのを特徴とする。何か月も手間ひまかけてつくった鰹節を、わずか数分間という短時間でその役割を終わらせてしまう、この贅沢なダシのとり方は、何となく粋な感じがあり、そこに日本料理の神髄のようなものをかいまみることができる。

昆布も鰹節とともに古くから使われてきたダシの材料で、そのうま味の本体はグルタミン酸である。この成分も湯によく溶けるから、そのダシの引き方は、鍋の大きさに合わせて適宜に切った昆布を、水から入れるか、湯の煮立つ間ぎわに入れ、1分間も煮立てたらすぐに引き上げてダシ汁とする。1時間ほど、ただ水に浸しておくだけでも味は十分出るから、この方法を良しとする人も多い。

ところで、鰹節のイノシン酸と昆布のグルタミン酸とは、不思議なほど互いに相乗しあって味を高める効果をつくりだす。グルタミン酸の味の強さ1に対し、イノシン酸の味の強さ1を混合すると、その味の強さは2であるはずだが、正しくは7.5となる。

干し椎茸も昔からダシの好材料として君臨してきたが、このうま味の主成分はイノシン酸に大変よく似たグアニル酸。この酸とグルタミン酸との相乗効果はさらに高まり、この両者では1+1=30という驚くべき味の伸び方をする。

 

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この記事を書いた人

編集部
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