【小泉武夫・食百珍】和食はこんなに素晴らしい(2)

カテゴリー:食情報
投稿日:2016.11.24

11月24日は「和食の日」。日本人の伝統的な食文化について見直し、和食文化の保護・継承の大切さについて考える日です。そこで小泉センセイ(東京農大名誉教授・当メディア総合監修)の特別寄稿「和食はこんなに素晴らしい」を11月23、24、25日と3日連続でお届け致します。

【小泉武夫・食百珍】和食はこんなに素晴らしい(1)

 

食を通じ心を養う

ところで、日本には、食の場に一定の作法をとり入れて食味を味わうと同時に、精神の修養や交際礼法を極める修道が、他国にはまったく例をみない文化のひとつとして伝わっている。その代表が茶道。室町時代の田村珠光を祖として、武野紹鷗(たけのじょうおう)を経て、千利休に至ってこれを大成した。茶の湯によって精神を修養し、これを他人と行って礼法を極める道。

禅の精神をとり入れ、簡素静寂を本体とする侘茶である。そして、その心は、客を招いて、茶をたてる前に、茶人自らが心を込めて料理をつくり、客に出す懐石料理をも生んだ。さらに供応形式料理の本膳、宴会料理の会席も一定の流儀や形式によって、配膳に心を配る。

これらの日本の伝統的な膳料理には、多くの面で心にくいばかりの気配りがある。例えば盛り付けひとつみても、食器は美しくそして使いやすいうえに、料理との調和の美を備えたもので統一したり、盛り付けの趣向は、器の中に自然を演出して、季節感を大切にする。また、空間を重んずるため大きめの器を選んで、余白を残すように盛り付けるなど、一種哲学的ともいえる要素をも込めた内容が随所にみられる。

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和食の基本「一汁三菜」

 

また、日本には外国にあまり類例のみられない「旬(しゅん)」という食の文化がある。魚介、蔬菜(そさい)、果物などが最も美味で、漁獲高、収穫量とも盛りに当たる時期を旬という。春夏秋冬と、四季が明確に分けられている日本では、1年中、動植物が交互に活動の場を持つから、旬のものは1年中にわたって分布する。四季のはっきりした島国とはいえ、肥えた土と良い水の国とはいえ、はたまた暖流と寒流の交差する国とはいえ、日本ほど季節によってうまいものが移り変わる国はたいそう珍しい。このことは、わが国の食の文化の特徴を語るのに、大切な事例のひとつともなっている。

旬という言葉の意味を、正確にいい表す英語やフランス語もないようで、その点、日本人は食べもののうまさや食べごろを季節ごとに分けて整理し、それを旬というただの一語でずばりといい表す、知恵と粋(いき)さを持っている。魚を例にとると、1年中いつでも美味な魚もいくつかあるが、大半はその味が多かれ少なかれ、季節によって変化する。その最もうまい時が旬となるが、旬の魚がうまいのは、産卵期前、体にタンパク質や脂肪などの栄養成分を豊富に蓄えた場合や、産卵期でなくとも、海流の関係で親潮(寒流)にのって、脂肪のついた魚が大量に下ってくる場合などが、旬のうまさにつながるのである。

また、川魚の鮎(あゆ)は、夏、水中の石に付着する珪藻(けいそう)が豊富に育ち、それを餌にしてどんどん成長し、西瓜(すいか)のような爽涼(そうりょう)な香気を帯び、姿態もいかにも均整のとれた時を旬とした。また10月、産卵前の落ち鮎は脂肪がのって絶品だとしてこれまた旬に選ぶ。

いずれにせよ、魚介も蔬菜も最も多く収穫される時を旬とみれば、大方間違いない。というのは、多くとれるから値が安く、新鮮なものを入手できるわけで、美味なのは当たり前なのである。

 

「うま味」を世界に教えた出汁(だし)文化

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和風出汁の主な材料

 

ダシ(出汁)は日本料理の妙味のひとつである。このダシという語がいつごろから登場したのかは明確ではないが、文献では鎌倉時代以後とされている。しかし、ダシが実際に使われたのはさらに古く、鰹(かつお)を煮て鰹魚(かたうお)という素干し品をつくる際の煮汁を煮つめて、これを鰹魚煎汁(かつおいろり)としたものをダシに使っていた。

今日では、鰹節や煮干し、するめのような動物性のものから、昆布、干し椎茸、乾瓢(かんぴょう)などの植物性まで、ダシの材料は多種にわたっている。

日本のダシの材料の中で、最も代表的なものは鰹節である。これでダシをとると、うま味成分だけでなく、日本食文化の原点に潜んでいるような芳香までわきでてくるところが大変良い。この点、外国の料理におけるダシのとり方が、肉やガラからうま味成分だけを抽出するのとは大違いである。

この鰹節のうま味の主成分はイノシン酸シスチジン塩で、この成分は熱湯には実によく溶ける。だから、削った鰹節を煮立った湯に入れてすぐに火を止めるか、または煮立つ直前の湯に入れて、煮立ったらすぐに取り出す必要がある。

この方法で、鰹節のうま味の九割以上は出ているから安心してよい。もし、必要以上に加熱を続けると、アク味や苦味、渋味などの不快な味が出てくるうえに、大切な芳香はどんどん発散して空中へと逃げ去ってしまう。

また、少しの鰹節では安心できぬと、たくさん入れる人もいるが、これもその心配には及ばない。むしろ、少なめの方がうま味がよく溶けだすのであって、量が多すぎると、苦味を生んでアク味が出るうえ、不必要な魚臭を放つから不利である。湯の量の1~4%がせいぜいであろう。

このように、目的のうま味成分と香りが出れば、それでもう終わりであるという日本のダシのとり方に対し、西欧料理では鶏ガラダシを例にみても、骨の髄(ずい)まで長い時間かけて煮出すのを特徴とする。何か月も手間ひまかけてつくった鰹節を、わずか数分間という短時間でその役割を終わらせてしまう、この贅沢なダシのとり方は、何となく粋な感じがあり、そこに日本料理の神髄のようなものをかいまみることができる。昆布も鰹節とともに古くから使われてきたダシの材料で、そのうま味の本体はグルタミン酸である。この成分も湯によく溶けるから、そのダシの引き方は、鍋の大きさに合わせて適宜に切った昆布を、水から入れるか、湯の煮立つ間ぎわに入れ、1分間も煮立てたらすぐに引き上げてダシ汁とする。1時間ほど、ただ水に浸しておくだけでも味は十分出るから、この方法を良しとする人も多い。

ところで、鰹節のイノシン酸と昆布のグルタミン酸とは、不思議なほど互いに相乗しあって味を高める効果をつくりだす。グルタミン酸の味の強さ一に対し、イノシン酸の味の強さ一を混合すると、その味の強さは2であるはずだが、正しくは7.5となる。

干し椎茸も昔からダシの好材料として君臨してきたが、このうま味の主成分はイノシン酸に大変よく似たグアニル酸。この酸とグルタミン酸との相乗効果はさらに高まり、この両者では1+1=30という驚くべき味の伸び方をする。

古い昔、これらの化学成分など知るすべもなかった日本人が、経験的に味の相乗性を知り、ダシの材料をうまく組み合わせて効果的にダシを得ていた知恵に驚かされる。

小泉武夫

(続く)

【小泉武夫・食百珍】和食はこんなに素晴らしい(1)

 

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この記事を書いた人

編集部
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