【ニッポン列島マレメシ紀行(1)】悪石島/酢醤油で食べるさわら その2

カテゴリー:食情報 投稿日:2016.04.30

鹿児島港を出てから十数時間。ようやく悪石島に着いた。手元の時計を見ると、正午に近い。滞在先の民宿の女将さんが車で迎えに岸壁まで来てくれた。話を伺うと、島には商店も銀行も郵便局も交番もないという。「事件が起きたらどうなるのか?」と心配したが、「そんなことない」と澄ました顔である。飲み物の自動販売機は1台あるという。

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自動販売機が島には唯一1台ある

 

「てげてげ」という言葉を思い出した。鹿児島や沖縄、宮崎でよく耳にする言葉である。「大概(たいがい)」が「てげてげ」に変化したのだろう。「のんびり」という意味が込められている。南国のゆったりとした時間に身を任せていると「てげてげでええや」という気にもなってくるから不思議だ。

とはいえ、時代の趨勢に島民の生活も逆らうことはできない。以前はお祝い事などがあると地元産の「ヤギ汁」が供されたが、ヤギ汁を食べることも少なくなったそうである。集団で家族や親戚が集まる機会が少なくなり、ヤギをさばける人も減っているのだろう。「悪石島のヤギはくさくない。汁にする際、みそと塩と酒を入れて味つけをする。ほかにはなにもいれない。今度きたらご馳走するよ」と温泉で出会った地元の古老は言っていたが……。

ヤギ汁を食べることはできなかったが、民宿ではサワラの刺し身を食べた。といっても普通の刺し身ではない。近海でとれたサワラを塩に漬け一晩くらい寝かせ、酢じょうゆで食べるのである。塩が魚のうまみを引き出すのだろうか、民宿で食べたサワラの刺し身は口の中で溶けるようだった。芋焼酎「トカラ海峡」との相性もバッチリだ。トカラの島々では魚の塩漬けは保存食としても重宝されたそうである。

悪石島を題材にしたルポルタージュ『美女とネズミと神々の島 かくれていた日本』(秋吉茂著)を思い出した。南の島での暮らしは「すべてが無垢で、すべてがおおまかで、すべてが自然そのもの」と書いてある。「地産地消」が叫ばれている現代ではあるが、地域に根づいた食文化や風習からは、人々の営みや歴史が見えてくる。旅は人間を映し出す「万華鏡」。新たな出会いを求め、私の旅は続く。

取材・文/豪流伝児

豪流伝児(ごうるでん・がい)/東京・新宿ゴールデン街をねぐらに、旅と食、酒を人生の伴にするライター。

 

※トップ写真はサワラの刺身です。

 

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