「薬食い」の習慣【小泉武夫・食べるということ(46)】

カテゴリー:食情報
投稿日:2018.05.04

 日本人の伝統的な肉のとり方

 今度は肉の話をしましょう。私は和食の素晴らしさを訴えていますが、別に洋食を敵視しているわけではありません。西洋の食文化は、彼らの民族が守ってきた伝統として、普段から敬意を表しているつもりです。

 日本人が肉を食べることも、私は頭から否定しているわけではないのです。そもそも、日本人だって昔から肉は食べていました。

 鯨は魚扱いでしたが、たとえばイノシシは山鯨と言い換えて食べたし、シカも食べていました。野鳥の肉は味噌漬けなどにされました。将軍家には牛肉や鶴の肉が献上されていたという記録も残っています。農家でも家畜が死んだりすれば、こっそり肉を食べたりしたものです。

 ただし、肉が日常的に食べられていたわけではありません。仏教ではいわゆる牛や馬などの動物を食べることを忌み嫌いますから、昔の日本人にとって肉食は基本的に慎むべき行為です。それでも、体が弱っているときや、厳しい寒さが続く冬の晩などに、「特別なこと」として肉を口にすることがあったわけです。

 肉食を「薬食い」と称することもありました。肉にはボリューム感もあるし、実際にスタミナもつきます。肉のタンパク質に含まれるスレオニン、トリプトファン、アスパラギン、グルタミン、システィンといった高分子のアミノ酸は、生き物の活力源になるのです。魚のタンパク質に多いアラニン、ロイシン、バリンなどは低分子のアミノ酸ですから、肉が持つ栄養素とは異なります。ですから、鯛の刺身を食べたときよりも、分厚いステーキを食べたときのほうが、私たちは「よし、頑張るぞ」という気分になれるわけです。

 

 バーベキューが優れている点

 現代の食事情を考えると、ありがたいことに肉は値段が非常に安くなりました。私が子どもの頃は、肉は高級な食べ物の代名詞みたいなものでしたが、最近はステーキ肉1枚よりも、鮪の刺身のほうが高かったりします。

 また、今は江戸の人たちのようにこっそり肉を食べる時代でもありません。大勢で楽しく食べることもできるのも、肉食のいいところではないでしょうか。たとえば、バーベキューです。屋外でビールでも飲みながら、炭火で焼いた肉や野菜にかぶりつく。こういう野趣たっぷりの楽しみは、和食ではなかなか味わうことができません。

 前回、免疫の話の中で、「楽しく笑いながらとる食事に勝る健康法はない」と私は述べました。気の置けない仲間同士が集まって、賑やかにおしゃべりを楽しみながら食事をするようなときには、1人前ずつ器に盛られた和食よりも、肩肘張らずにみんなで突っつける焼き肉のような料理のほうが向いているような気もします。

小泉武夫

 

※本記事は小泉センセイのCDブック『民族と食の文化 食べるということ』から抜粋しています。

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この記事を書いた人

編集部
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