季節感を心で楽しむ文化【小泉武夫・食べるということ(20)】

カテゴリー:食情報
投稿日:2017.10.04

春夏秋冬の山河

同じアジアの国々でも、日本ほど春夏秋冬をはっきりと実感できる国はありません。日本人が持っている豊かな情緒も、季節ごとに旬を感じられる気候風土によって育てられてきたものだという気がします。

セミが一斉に鳴き始め、暑くなったかなと思っていると、お盆を過ぎた頃からカンカンカンカンというヒグラシの声が聞こえ出す。夜になれば、いつの間にかチョロリンチョロリン、リーリーリーという虫の音が耳に届くようになる。庭に咲く花は朝顔からコスモスに代わり、薄の穂が揺れる頃には風も北から吹いています。涼しさが寒さに変わると、柊が小さな白い花をつけ、初雪が舞う頃には山茶花が咲きほころぶ。霜柱を踏む足元を見れば、凍った土から福寿草が顔をのぞかせます。やがて東風とともに梅のつぼみが膨らみ始め、メジロやウグイスが庭に姿を見せれば、直に桜も満開。続いて菖蒲や杜若が濃紫の花弁を解き、梅雨の訪れを待っていたかのように紫陽花が色づく。鼠色の雨雲が消え、青空に入道雲が湧いてくると、セミが一斉に鳴き始め……。

これほど季節を身近に実感できる国が、日本の他にあるでしょうか。しかも、日本には季節感と心とを巧みに表現する伝統文化があります。それが俳句です。

俳句には、必ず季語を入れるという約束事があります。5・7・5という、たった17文字の中に、季節の風物詩と自分の心情とを読み込むのです。これほど高度な作業を、知的遊戯として楽しみながらやってきた日本人は、本当に情緒豊かな民族だと思います。

 

旬を詠むこころ

私自身も、「醸児」という俳号を持っていて、「醸句会」という俳句の会の一員でもあります。もともと美味しいものを食べ歩く会でしたが、いつの間にか句会になってしまいました。手前味噌で恐縮ですが、いくつか拙作を紹介すると−−。

 

椀の底 乱れ碁石の しじみ汁

青りんご 無念なるかな 土に朽ち

この日から 陽急ぎ落つ だっさいき

鮟鱇を 笑いものする 吊し切り

 

「だっさいき」は「獺祭忌」と書きます。俳人・正岡子規の命日にあたる9月19日のことです。その他は、季語に食べ物を詠んだ句を選んでみましたが、食べ物に旬があることは、歳時記を見てもよくわかります。例えば−−。

 

◯春:独活、芹、土筆、薇、蕗の薹、鰊、鰆、白魚、目刺し、浅蜊、蜆、海苔、白酒

◯夏:麦、胡瓜、トマト、西瓜、苺、岩魚、鱚、鰺、穴子、烏賊、昆布、甘酒、梅干

◯秋:稲穂、蕎麦、粟、芋、小豆、南瓜、茸、栗、無花果、秋刀魚、鰯、柚味噌

◯冬:大根、人参、葱、白菜、蜜柑、納豆、鱈、鰤、鮟鱇、鯨、すき焼き

 

昔の家庭では、旬にとれた最初の食べ物を「初物」と呼んで、まず仏様にお供えしてから家庭でいただいたものです。日本人が、いかに旬を尊び、季節の恵みに感謝していたか。今では、夏でもミカンが売られ、冬でもイチゴを食べることができますが、食べ物は本来、旬のものに感謝していただくものだという心を、私たちはもっと大事にしなければなりません。

小泉武夫

 

※本記事は小泉センセイのCDブック『民族と食の文化 食べるということ』から抜粋しています。

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この記事を書いた人

編集部
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