6次産業は新しい農業のあり方【小泉武夫・食べるということ(18)】

カテゴリー:食情報
投稿日:2017.09.21

大山町の新しい取り組み

 さて、「農業は素晴らしい仕事であり、真剣に向き合えばやり甲斐も実感できる」と(17)で言いましたので、その実例をお話しましょう。

 大分県の西部に大山町というところがあります。2005年3月の市町村合併で、現在は日田市に編入されていますが、大山という地名は残されました。その大山町の人口は4300人。640戸の農家が所属する「大分大山町農業共同組合(JA大分大山)」は、独自の農業方針を掲げて、大成功を収めているのです。

 私は、組合長に何度も会っていますが、彼はこう話してくれました。

「よそと同じ農業をやっていたら、農家の現金収入を上げることができません。自分たちにしかできない農業を追求しなければ、未来は切り開けないと思ったのです」

 

農業の6次産業化

 大山町の農家は、「プロフェッショナル農業集団」を名乗り、独自の農業を模索しました。そして、最初に手がけたのが土づくりだったのです。「はじめに土ありき」を合言葉に、大山町では堆肥農業への取り組みが始まりました。いわゆる有機農業のことで、最近の言い方をすればオーガニック作物の生産です。

 堆肥で育てた大山町の農産物は、評判になりました。なにしろ美味しいのです。値段は高くても、よそにはないとびきりの野菜は、売れに売れました。

 しかし、プロフェッショナル農業集団の仕事は、農作物をつくって終わりではありません。先見性が存分に発揮されたのは、つくった後なのです。

 例えば、小麦。堆肥で栽培した素晴らしい小麦は、売り物にはしません。畑の中に立てた工房に窯をつくり、パンを焼いて売るのです。

 堆肥で育てた素晴らしいイチゴも同様です。農家はイチゴを自家で加工し、ジャムにして売るのです。

 大山町では、他にもオーガニック・ハーブを使ったクッキーや、特産の梅、栗、柚子、ゴマを使った羊羹など、さまざまな加工品を販売しています。これらは、「6次産業」という考え方です。従来の農業は1次産業です。作物を加工するのは2次産業です。加工した商品を売るのは3次産業です。その全てを農家が一貫して行えば、農業はより収益率の高い事業に変えることができます。つまり、「1次産業×2次産業×3次産業=6次産業」という、新しい農業のあり方なのです。

 大山町では、「木の花ガルテン」という農産物や加工品の販売所を経営していますが、その中に農民食堂もオープンさせました。最高の食材を、最高の料理にして提供する「農家もてなし料理バイキング」は、今では平日でも3時間待ちという人気だそうです。

 

地産地消は地域活性化にもつながる

 6次産業化によって、農業の新たな可能性を創出した大山町には、志を持った若い就農者も増えています。それもそのはずです。大山町の農家は、驚くほどの収益を実現しているのです。今、日本の農家一軒あたりの平均収入は470万円程度ですが、大山町の農家の平均収入は2000万円を超えます。「農業は素晴らしい仕事であり、真剣に向き合えばやり甲斐も実感できる」という私の言葉が、決して誇張ではないということが、おわかりいただけることと思います。

 さらに付け加えれば、大山町のケースは地産地消が地域の経済復興にも寄与することを実証しているのです。これは大分大山町農業共同組合の理念の素晴らしいところですが、農家だけが潤えばいいという発想で6次産業化が推し進められているわけではありません。利益は地元に還元しようと、組合員たちは町の商店街を積極的に利用します。これで、地元の商店街は活性化しました。

 また、農家の利益は地元の銀行に積み立てられ、銀行は地元で伸び盛りの企業に融資をして支援します。これが雇用の拡大にもつながり、街全体の発展に拍車をかけているのです。

 大山町のケースは、 “農を基盤とした経済循環システム” のお手本でもあります。今、「日本の農業には未来がない」と述べる有識者は少なくありません。しかし、そういった意見の大半は、「現状のままでは」という前提で語られているのです。地産地消の意義を真剣に考え、地域と一体になって現状を変えていく意識を持てば、日本の農業は必ず未来を切り開くことができると私は信じています。

小泉武夫

 

※本記事は小泉センセイのCDブック『民族と食の文化 食べるということ』から抜粋しています。

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この記事を書いた人

編集部
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