地産地消は食文化の基本【小泉武夫・食べるということ(16)】

カテゴリー:食情報 投稿日:2017.09.04

地産地消と食料自給率

 日本の食料自給率は、かつては100%でした。品目別に見てみると、魚介類の自給率は今54%ですが、昭和40年度は100%でした。もっと細かく見ると、食用の魚介類の自給率は110%ありました。これは、食べきれない魚を缶詰などに加工して、外国に売っていたからです。

 自分たちで農産物をつくり、自分たちで魚を捕り、自分たちで食べていれば、食料自給率が100%を割ることはないのです。これは当たり前の話です。

 地産地消(地元で生産した食料を地元で消費する)という用語は、最近いろいろな方面で使われるようになりましたが、食料自給率と地産地消とは、表裏一体の考え方なのです。

 もともと日本人の食生活は、強度の地場産業とともに営まれてきました。和食の献立に用いられる食材は、全て国内で調達できるものなのです。伝統的な食生活を続けていれば、日本人は食べ物を外国に頼らなくても生きていけたはずです。地産地消という考え方は、いわば民族の食文化の基本だったのです。

 地産地消の大きなメリットは、つくった人が見えるという点にあります。今、スーパーマーケットで野菜や肉や魚を買っても、つくった人の顔は見えません。食品の産地表示が義務付けられ、一部の野菜などには「私がつくりました」という生産者の名前や写真のラベルが貼られていることもありますが、ほとんどの食材は誰がつくったのかわからないものです。これは、食の安心・安全を考えたときに、非常に心細いことです。

 

地元の食べ物が郷土愛を育む

 また、地元でとれたものを食べないでいると、住んでいる土地への愛着も湧いてこないものです。自分が住んでいる町の特産品や名物を知り、それを口にできることへの感謝の気持ちが、郷土愛をはぐくむ一助になると私は考えています。

 一つ、興味深い調査報告を紹介しましょう。あるNPOの研究グループが、中学生と高校生を対象に、全国200ヵ所の市町村で実施したアンケートです。質問項目は、「あなたは自分が住んでいる町が好きですか?」というもの。「好き」なら①、「嫌い」なら②、「わからない」なら③という3択です。結果は、愕然とするものでした。回答の8割は③、残りの大半は②。自分の町が「好き」と答えた子どもは、ほんの一握りしかいなかったのです。

 この結果を、地産地消とは関係がないと思う人もいるかもしれませんが、はたしてそうでしょうか。私自身、今でも、望郷の念に駈られることがしばしばあります。その理由は何かといえば、ふるさとの味が恋しくなるからです。今度、故郷に帰ったら、アレを食べよう、コレも食べたいと、思いを巡らせるのは実に心が躍るものです。子どもの頃に口にするふるさとの食べ物は、強い郷土愛となって心に残るものだと私は感じています。

小泉武夫

 

※本記事は小泉センセイのCDブック『民族と食の文化 食べるということ』から抜粋しています。

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編集部
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